皆さんは「汗」をかきますか?多くの方は「YES」と答えるでしょう。「汗」は体温調整に不可欠で、体温が上がったときに発汗することで熱を逃がしてくれます。しかし、その「汗」が過剰に出て日常生活に支障をきたす「多汗症」という病気があることをご存知でしょうか?
「え、多汗症って病気なの?ただ、汗が多いという意味かと思った」という方もいらっしゃるのではないのでしょうか。「多汗症」は障害者総合支援法で「難病」と位置付けられています。単に「汗が多い」だけでなく、深刻な問題です。実は私も、数年前までこの病気について知りませんでしたが、多汗症の方々と出会い、その生きづらさを目の当たりにしました。多汗症の人は、本来の能力の半分しか発揮できていないというデータ(片山他,2020)も示されています。このように多汗症は日常生活に多くの影響を及ぼすものの、周囲からの理解を得られにくいということからサイレントハンディキャップと呼ばれています。
私たちは、多汗症の方の生きづらさを知るにつれ、何か貢献できることはないかと考え、多汗症に関する研究を始めました(詳しい内容は、山極が紹介していますので、こちらをご覧ください。)
私たちの研究から、多汗症の方が直面する生きづらさは幼少期から始まり、学童期、思春期、青年期、成人期それぞれ特有のものがあることがわかりました。例えば、成人期には就職や結婚、子育てなどの問題が出てきます。「もし子どもが同じように多汗症になったらどうしよう」という不安から、子どもを持つことに消極的になることさえあります。一方で、どの時期にも共通の点があり、それは周囲の理解を得られにくいということでした。
そこで、私たちは、多汗症に対する周囲の理解を広げるために、パンフレットや動画を作成してきました。しかし、もっと小さいうちから多汗症について知ってほしいと思い、今回は紙芝居を作成しました。絵を担当してくれたのは、地元のラジオ体操仲間(https://www.tokyomirai.ac.jp/future/tougo/tougo-724/)でボローニャ国際児童図書展グラフィック賞を受賞した本信公久さんです。とても素敵な絵をかいてくれました。ラフ図をラジオ体操後にみんなで見た時には、思わず拍手喝采が起こりました。
さて、早速この紙芝居を保育園で子どもたちに読んでみました。ちゃんと見てくれるかな・・とちょっとドキドキしましたが、子ども達は真剣に見てくれました。
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藤後:「みんなどうだった?」
子ども達:「面白かった!」
藤後:「ありがとう。面白かったんだ~。どんなところが?」
子ども達:「だって動物も汗かくし、汗は僕たちを守ってくるし」
藤後:「そうなんだ。汗ってすごいね。汗って好き?」
子ども達:「うん!!!!」
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紙芝居の途中で、友達が汗で困っている場面の絵があるのですが、「お友達が困っていたら、何してあげることができる?」と聞くと、「ハンカチもってきてあげる!!」と得意そうに応えていました。
多汗症を持つことによる生きづらさは、他のマイノリティが持つ生きづらさにも通じます。誰しもがちょっとした立場の違いでマイノリティになり得るのです。事故や病気、災害、事件に巻き込まれたり、国籍が違う海外で生活したりしてもマイノリティになります。心理臨床で関わる多くの人たちは、マイノリティの経験で生きづらさを感じています。
私が専門としているコミュニティ心理学では、誰もが排除されず、自分らしさを認めてもらえる社会を目指しています。多様性を認め合う世界、それを多汗症という切り口から実現したいと思っています。公認心理師・研究職として貢献していくつもりです。ぜひ皆さんも一緒にインクルーシブな社会を作っていきましょう。
引用文献
片山一朗・室田浩之・金田眞理・田中智子・横関博雄・玉田康彦(2010).突発性多汗症患者における労働生産性、学習生産性の障害に関する準備研究 厚生労働科学研究費補助金 分担研究報告書