梅雨時のむし暑い毎日が続き、汗ばむ機会も増えましたが、みなさんは「多汗症」という病気をご存じでしょうか。
多汗症とは、その名のとおり、過剰な発汗(汗を多くかいてしまう)を主な症状とする疾患であり、有病率は約5%程度とされています(藤本他,2023)。つまり、約20人に1人という、少なくない人々が抱えている病気といえます。
汗が多いという症状は、「洋服が汗で濡れてシミができてしまう。」、「ノートや紙が手の汗でぐしゃぐしゃになってしまう。」、「スマホなどの電子機器が壊れてしまう。」といった、さまざまな日常生活での困りごとをひきおこします。さらには、たくさん汗をかいていること(汗によって濡れている洋服やノートなど)を他人に見られると恥ずかしい、見られる場所に行くことが苦痛で不安といった、気持ちや心にも影響をおよぼします。
多汗症そのものは自律神経を主な原因とする「身体」の病気ですが、その症状は、日常生活や、心の問題にも発展することがあるとされています(藤本他,2023)。一方で、多汗症の認知度(知っている人や、病気を正しく理解している人の割合)は低いことも指摘されています。
私たちは、このような多汗症(汗の問題)と心との関係について、大学生を対象とした調査を行いました(山極・藤後,2022)。その結果、大学生のうちの約87%もの人が自分自身の汗を気にしていること、なかには、先にあげたような日常生活での困りごとを抱えていて、それを解消するための多くの工夫(ハンカチや制汗シート、スプレー)をしていることがわかりました。そして、汗の問題と心との関係については、過去に、他人に物を渡す時や手をつないだ時などに、汗をかいていることや汗が多いことを指摘されたりして嫌な思いをした経験があることも明らかとなりました。一方で、この研究では多汗症の説明も行ったのですが、その後には、「子どもの頃、汗っかきの友達を、悪気なくからかってしまっていた」などの感想もあげられました。
これらの、汗の問題に悩んでいる人、そうではない人、それぞれの経験をまとめると、汗の問題で悩んでいない人が、「何気なく」言った言葉が、悩んでいる人には嫌な思いや記憶として残ってしまい、現在の生活や不安に影響をおよぼしているのではないかということが考えられました。
私たちは、このような「行き違い」を解消するために、多汗症に関する知識を提供する(伝える)心理教育プログラムを作成しました(藤後・山極・田所,2023)。具体的には、「多汗症」や「心と身体の関係」に関する動画とパンフレットを作成しました(写真はそのパンフレットです)。
パンフレットの作成では、子どもにも伝わりやすいよう、東京未来大学の大学生にも協力をしてもらいました。かわいいイラスト(たかんちゃん)も大学生が描いてくれたものです。
私の専門は臨床心理学であり、公認心理師・臨床心理士の資格を持って、臨床心理学の実践(カウンセリング)を行っています。
みなさんの多くは、カウンセリングやカウンセラーの仕事は、うつ病や不登校といった心の問題を持った人々を対象とするもの、というイメージがあるかもしれません。もちろんそれらも1つですが、多汗症のような「身体の病気」を抱えた人々を対象として、その病気の症状によって生じる心の問題への支援も臨床心理学の実践の1つです。
また、すでに問題を抱えている人への支援だけでなく、問題が生じることや、より深刻な問題への発展を防ぐことも、「心の健康教育」(心理教育)という臨床心理学の実践の1つになります。
みなさんの中には、将来カウンセラー(公認心理師・臨床心理士)をめざしている人もいるかもしれません。カウンセラー(という職業)が、どのような場所で、どのような人々を対象に、どのようなことを行うものなのかをぜひ調べてみてください。
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文献
藤本智子・横関博雄・中里良彦・室田浩之・村山
直也・大嶋雄一郎・吉岡洋・宗次太吉・羽白
(2023). 原発性局所多汗症診療ガイドライン
2023年改訂版 日本皮膚科学会雑誌,133
(2), 158-188.
藤後悦子・山極和佳・田所重記(2023). 多汗症
を背景とした不適応行動に関する調査――森田
療法的視座を取り入れた心理教育プログラムの
開発に向けての予備調査―― 岡本財団研究助
成報告書
山極和佳・藤後悦子(2022). 大学生における汗
の問題に関する意識――汗のイメージおよび記
憶との関連―― 未来の保育と教育(東京未来
大学実習サポートセンター紀要),9, 125-
135.