
みなさんは、悩んでいる時にどうするでしょうか。まずは、友人や恋人、家族といった身近な人に話したり、相談したりする人が多いことでしょう。悩みの内容や種類によっては、カウンセラーや医師といった、心や身体の専門家に相談することもあるかもしれません。
このように、悩み(問題やストレス)を抱えた時に、他者に理解や助言、情報や治療といった援助を求めることは、「援助要請」とされ(DePaulo, 1983)、さまざまな研究が行われてきています。その中で、悩みをひとりで抱え込まずに、まわりの人や専門家に適切に援助を求めることは心の健康を保つために必要であることがわかってきています。
しかし、「適切に援助を求めること」ができない場合もあります。そのひとつとして、私たちがこれまで行ってきている(過去のブログ:山極・藤後) 多汗症の人の「汗の悩み」についてお話ししたいと思います。
多汗症は、過剰な発汗を主な症状とする疾患(病気)です。その汗の症状は、洋服が汗で濡れてしまったり、ノートや紙が手の汗でぐしゃぐしゃになってしまったりといった、日常生活上での多くの困りごとを生じさせます。また、汗をかいている自分や洋服、ノートを他人に見られることに対して「恥ずかしい」という感情も生じさせてしまいます。
しかし、多汗症の人たちの中には、汗のことや、それによって困っているという悩みについて他人に話したり、相談したりすることを「恥ずかしい」と感じる人も多いようです。その理由のひとつとして、過去に、他人から「汗すごいね」などと指摘されたり、からかわれたりして嫌な思いをした経験があげられます。一方で、そのような言葉をかけた汗で悩んでいない人は、何気なく言っている場合が多いこともわかっています(藤後・山極編著,2024)。
これらから、多汗症の人たちが、悩みを他人に話せない、相談できない、つまり援助要請を行えない理由は、まわりの人たちの、汗の悩みに関する無理解が関係しているとも言えるでしょう。実際に、多汗症は認知度(病気について知っている人や、正しく理解している人の割合)が低い疾患であるとされています(藤本他,2023)。
言いかえれば、多汗症や汗の悩みについての、まわりの人の正しい理解があることによって、疾患や悩みを抱える人が援助を求めやすくなるのではないでしょうか。正しい理解とは、多汗症が医療的治療や、心理的、福祉的支援の対象となる病気であること、そして汗の悩みによって生じる多くの困りごとや心理的な苦痛や不安をともなうことなどです。
私は、臨床心理学を専門とする立場として、また悩みを抱える人たちへの支援を行う公認心理師・臨床心理士として、多汗症や汗の悩みが、「誰にも言えない」悩みではなく、「誰かに言える、相談できる」悩みになることを願っています。

引用文献
DePaulo, B. M. (1983). Perspectives on help-seeking. In B.M. DePaulo, A. Nadler, & J. D. Fisher (Eds.), New directions in helping: Help-seeking (Vol. 2, pp. 312). Academic Press.
藤本智子・横関博雄・中里良彦他(2023).原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年版改訂 日本皮膚科学会雑誌, 133(2) ,157-188.
藤後悦子・山極和佳編著(2024). 誰にも言えない汗の悩み――多汗症のための心理学的・医学的サポート―― 福村出版