みなさんは「コーチング」という言葉を聞いたことがありますか。家庭や地域、職場の人間関係やコミュニケーションで悩んでいる方は、この言葉が解決へ向けてのヒントになるかもしれません。
書店に行くと、コーチングに関する本がずらっと並んでいます。「コーチ」というとスポーツを思い浮かべるかもしれません。しかし、それだけでなく教育、企業、子育てなど、幅広い分野の本のタイトルに使われています。それだけ世の中に求められているのだと考えられます。社会には「教える―教わる」「支援する―支援される」関係がたくさんあります。自分が教える立場にあったとき、自分の考えを相手に上手く伝えられなかった経験があるのではないでしょうか。そんな時に参考になるのが「コーチング」の考え方です。
例えば、学校の先生向けの本(※1)には、このように書いてあります。「個別(特定の相手への)コーチングの流れとして4つのステップがある。①現状を聞く~関係構築、②将来の望ましい姿を描かせる~目標設定、③解決に向けての芽を探す~強みを探す、④定期的に進捗を確認する~先生のサポート」―なるほど、「ティーチング(教える・指導する)」とはちょっと異なるように感じられます。さらに重要なこととして、以下のことが書かれてあります。「何よりも子どもが自己決定することが大切であり、人からやらされるのではなく自分が決めることが重要である」-あくまでも主体は子どもであることが読み取れます。学校現場でも「発達支持的生徒指導」という表現で、「コーチング」の考え方が取り入れられるようになってきています。(※2)
このような個別コーチングの具体的なやり方は、さまざまなケースに当てはめることができるでしょう。しかし、理屈はわかっていても上手くいくとは限りません。私はこの一年間、身をもってコーチングの難しさを思い知らされました。それは、わが子との受験勉強への取り組みにおいてです。
私は先生方の研修会でコーチングについて話したり、地域のスポーツ少年団でコーチをしたりと、コーチングの専門家ではないけれど、それなりの知識と経験を有していると思っていました。しかし、実子とのかかわりは悩みに悩み、「知っている」のと「やる・できる」のでは大違いだと思い知らされました。幸いなことに、最後にはお互い笑顔で終わることができ、私自身のコーチング力も向上したのかなと思いました。―しかし、待てよと。この原稿を書き終わる前に、子どもの視点で振り返ってみると、子どもも私にコーチングしていたのではないかと、ふと思いました。私は子どもから、たくさんの勇気づけられる言葉をもらいました。「コーチング」は一方向ではなく双方向であるが故に、人間関係をより良くできるコミュニケーションになり得るのではないでしょうか。
私が次に取り組むのは、夫婦関係の改善です。「コーチング」なんて言うと上から目線な気がして怒られそうです。「失敗」の始まりにならないことを祈ります。
※1:片山紀子編著 原田かおる著「知ってるつもりのコーチング」2017.学事出版
※2:文部科学省「生徒指導提要」2022.12.東洋館出版社