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感覚マイノリティ

投稿日:2023年06月22日

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 以前に比べて日本の夏は暑い日が増えているようです。近頃は熱中症警戒アラートが発令されて人々が暑さに注意を払うように促されています。暑ければ薄着になったり冷たいものを飲んだり自分で対処するから気象庁にわざわざ教えてもらわなくてもいいのに、と思うかもしれません。でも少し周りを見回すと、暑がりな人と暑さが平気な人、寒がりな人と寒さに強い人など色々な人がいますよね。大教室の授業では冷房を使用すると、ちょうどよいと感じる人、もう少し涼しい方が良いと思う人、寒い!と感じる人が混在して、何度に設定したらよいのか迷うことがよくあります。つまり同じ気温と湿度であっても感じ方は人それぞれ異なるということです。
 次に食べ物を取り上げてみましょう。多くの人が好む味というのはあると思いますが、感じ方は人それぞれ異なります。タイ料理やベトナム料理に欠かせないパクチーは好き嫌いが分かれますね。好きな人はパクチーの味というより香りが好きなのだと思いますが、嫌いな人はあの香りが耐えられません。子どもが苦手なピーマンやシイタケ、ニンジンも嫌われる理由は独特なにおいにあります。また、生野菜のサラダなどが好きな人には気づきもしませんが、野菜を口の中で噛んだ時のシャリシャリした音がイヤで野菜嫌いな子どもがいたり、噛んだ時の歯ざわりや細かい粒々のざらっとした感じがたまらなくイヤに感じる子どもがいたりします。ある食べ物で食中毒になったなどのように明確な因果関係があるもの以外は子どもの偏食の原因は様々で、その子特有の感じ方によるものが多いのです。
 私たちは目や耳、鼻、皮膚などにある感覚器で目ならば光、耳ならば音、鼻ならばにおいというように特定の外界の情報を受容しています。感覚器が受容する外界の情報を心理学では刺激と呼びますが、同じ強さの刺激でも受容する個人によって感じ方には違いが生じます。衣類の洗濯用洗剤や柔軟剤は良い香りが持続するものが多く販売されていますが、洗剤や柔軟剤の香りが強すぎて頭痛がしたり、くしゃみが止まらなくなったりする人がいます。席が変えられない場所で苦手な香りのする服を着ている人が隣に座った時にはもう地獄です。また、授業中LED照明の下でノートをとっている場合、何も問題なくノートに書き写せる人が大多数なのは事実ですが、白いノートに反射する光がまぶしくて思うように字が書けない人もいるのです。この場合、照明の光を反射しすぎない水色や緑など薄い色のついたノートを使うことで少し楽になります。ノートの色に合わせて筆記具も文字の太さや色が見やすいものを選ぶと良いでしょう。近頃は衣料メーカーが「チクチクしない」をキーワードに首元にあたる繊維が滑らかなウール製品を販売するようになりました。子どもは皮膚が薄く柔らかいのでウール製品は繊維が肌を刺す感じがして苦手な場合があるのですが、大人になってもチクチク感が苦手な人が案外多いことに気づいたのだと思います。
 このように刺激の受け取り方はひとりひとり異なります。大多数の人が何とも感じないのだからそれで良いのではなく、不快を感じたり苦手と思ったりする少数派の存在を認め、どうしたら不快や苦手を低減できるのかを共に模索することも思いやりと言えるのではないでしょうか。そして、自分の感じ方は自分にしか経験できません。しかたがないとあきらめて大多数に合わせてばかりいないで、言葉にして伝える努力もしてみませんか。

こども心理学部

渡辺 千歳

渡辺 千歳
(WATANABE Chitose)

プロフィール
専門:子どもの認知発達、子育てにおける保育者支援・保護者支援
略歴:東京女子大学文理学部心理学科卒業、お茶の水女子大学人文科学研究科修了、
同大学院人間文化研究科(博士課程)人間発達学専攻単位取得退学。
中央大学、専修大学等で非常勤講師、國學院大學栃木短期大学初等教育学科教授を経て、現職。

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