
世界中にファンがいるハローキティ。キティちゃんが株式会社サンリオのキャラクターとして誕生して今年で50年だそうです。小さなお子さんから、そのお母さん、さらにおばあさんと幅広い年齢で親しまれ、また性別も越えて愛されています。こんなに長く、多くの人たちに愛され続けるヒミツはいったい何でしょう。
キティちゃんが好きな理由をある女の子に尋ねたら「かわいいから」と答えました。そう、キティちゃんは可愛さを体現しているのですね。標準的なお座りをして横を向いているキティちゃんの他に、時流に乗った様々な新しいデザインが登場していますが、世に出される基準は「かわいいか、かわいくないか」だそうです。国や地域、年齢や性別を問わず多くの人に可愛いと思ってもらえるように描かれるキティちゃんの一番の特徴は口を描かないということです。この決まりごとはキャラクター設定の上で明確な意味を持つそうです。加えて曲線で描かれるという特徴もあるそうです。まるくておおきな頭、おでこは広め、白目が無い黒い目、主張をしない小さい鼻、そして口が無いこと。そういえば、オランダの絵本作家でグラフィックデザイナーのディック・ブルーナが描いたキャラクター「ミッフィー(日本名うさこちゃん)」にも通じるものがありますね。ミッフィーは2025年が誕生から70年目になるそうです。どちらも長く世界中で愛される可愛いキャラクターです。
ところで、キティちゃんは目が笑っている顔もときどき描かれますが、標準的な顔はあまり感情を表出しない、ほぼ無表情です。受験の願書に貼る証明写真や身分証に使う写真は真面目な顔が求められるので豊かな表情とは無縁ですが、リラックスして自然体で写真を撮る場合、無表情はあまり良い印象を与えません。ただし最近の証明写真は、ちょっとだけ微笑む程度は好印象を与えるので良しとされているようですが。
キティちゃんやミッフィーの顔の特徴に戻りましょう。身長に比べて頭が大きいのは乳幼児の特徴です。人の乳幼児は頭や顔全体が丸くておでこが広く、黒目の部分が大きく、頬がふっくらと出ているので鼻や口はあまり目立ちません。そして、まだ知らないことや分からないことが多いのでキョトンとした表情で大人を見上げます。この表情がキティちゃんやミッフィーの標準的な顔にそっくりだと思いませんか。このような表情や姿はあどけなさや頼りなさ、幼さを見る人に喚起します。「かわいい!」と感じて胸がきゅんとなってしまいます。このような幼くて可愛い顔や身体的特徴を心理学ではベビーシェマと呼んでいます。「かわいい!」と思う対象には近づいて触れたくなったり、現代なら写真を撮ったり、関りを持ちたくなったりするものです。もしもそれが自分の赤ちゃんだったら、親は育児に励むでしょう。大変なこともあるけれど、可愛さと責任感が昼夜を問わない養育行動を動機づけています。小学生の途中くらいまでは幼い可愛さが残っていますが、身長が伸びてしまうと全体的に丸みが無くなり、幼い可愛さは喚起されなくなります。成長すれば親も子どもを一個人として見るようになり、徐々に子離れ・親離れが始まると考えられます。
人間が外界の状態を知る手段として一般に言われる五感がありますが、普通は主に視覚情報を頼りにしています。キティちゃんはそのルックスで私たちの「可愛い」センサーを刺激しているのですね。これもある意味あざといと言えるのかもしれません。