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過去へのいざない

投稿日:2022年12月15日

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 時間の流れの中で、過去の出来事に思いを馳せることがあります。幼い頃の運動会や遠足、少し大きくなってからの部活動や修学旅行などでなつかしさを感じます。なつかしさの感情は、以前は頻繁にかかわっていたものが一定期間の空白があるときに生じるとされ、ノスタルジアということもあります。ノスタルジアという場合は望郷など社会文化的な側面もみられますが、両者にはそれほど大きな違いはみられません。なつかしさではしばしば甘酸っぱさやほろ苦さなど両面性を含んだ感情がみられます。また、過去と現在とをつなぐ記憶の働きも大きくかかわっており、思い出として残っているような個人的な経験が基となっています。記憶との関連でいうと、自分自身がいつどこで誰と経験した出来事なのかを意識している記憶と言えます。

 ノスタルジアについては個人的な思い出のほかに歴史的ノスタルジアといったものもあり、自分が育った文化の中で共有されたものが基となっています。自分自身がまだ生まれていない時期の様子や出来事なのになつかしいと感じるのです。例えば昭和の風景について、平成生まれの人もどこかなつかしさを感じることもあります。この歴史的ノスタルジアは、実際には経験していないので、自己の経験としての意識は無くむしろ知らないうちにその人の中に蓄積された記憶と言えます。

 ノスタルジアは過去に対する感傷的な思いもみられ、時には過去を美化しすぎると言われることもあります。しかし、現代社会は非常に変化がめまぐるしいので、そのような中ではむしろノスタルジアによって時間の流れがゆっくりと感じられることがあります。そのことが人々の気持ちを穏やかにしたり心の安定をもたらしたりすることもあります。ノスタルジアには、過去を振り返ることにより孤独感や退屈さを軽減させたり、これまでの人生の意味を感じさせたり、さらには心をリラックスさせる癒しの働きなどがあるとされています。

 このような癒しの効果は主に個人的なノスタルジアとして取り上げられていますが、歴史的ノスタルジアについて考えることもできます。自分自身のルーツが感じられるものを見ると感慨深くなることもあるのではないでしょうか。少し大げさかもしれませんが、アイデンティティの獲得にもつながるのかもしれません。遠い過去と今を生きる現代とはどのようにかかわりあっているのでしょうか。

 現代の社会で重要な問題提議とされているものにSDGsの目標があります。そのうちの「11.住み続けられるまちづくりを」の中に「11.4 世界の文化遺産や自然遺産を保護し、保っていくための努力を強化する。」が挙げられています。古き良きものに接して心が落ち着いて和むということもあります。その意味でも歴史的ノスタルジアを生じさせるようなものを長く残しておきたいという気持ちにもなることでしょう。さらに、同じくSDGsの目標に「12.つくる責任、つかう責任」があります。これに「まもる」を加え「つくる責任、つかう責任、まもる責任」についても考えていくことができるかもしれません。過去を振り返ることは古さと新しさの双方を兼ね備えているようにも思えます。

こども心理学部

坪井 寿子

坪井 寿子
(TSUBOI Hisako)

プロフィール
専門:認知心理学、発達心理学
略歴:学習院大学大学院人文科学研究科心理学専攻博士後期課程中退。
大学入試センター進学適性研究部門にて非常勤職員。
日本電子専門学校にて非常勤講師。
鎌倉女子大学短期大学部及び児童学部子ども心理学科にて専任講師。
「臨床発達心理士」、「学校心理士」。

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