ちいさい子どもは、いろいろな「はじめて」を体験しながら、日々、育っていきます。生活する環境の中で、興味をもった対象を自分の思うように触ってみたり、枝や石など身の回りの物を道具にしてつついてみたり、いろいろと試しながら、その対象の性質や関わり方を試しています。つまり、子どもは自分で関わることで物事を考えることを学んでいるのです。
ちいさな子どもが周囲の世界に興味をもつには、子どもから見て面白そうだと思うような物があること、かかわりたいと思う相手がいることが必要です。そして、誰かと一緒に、または、何かに対して子どもが感じる「こうしたい」、「こうしてみたい」は、子どもの行動の原動力の一つになります。
例えば、蟻の行列の前でしゃがみ込んで見続ける子どもは、蟻、または蟻の行列の何かにひきつけられていて、じっと覗き込むように見ていることもあれば、小枝をもってきて蟻の前に差し出したりすることもあるでしょう。蟻が小枝の上に登ってきたら、慌てて小枝を手放す子どももいれば、小枝の上を進んで近寄ってくる蟻をじっと見つめる子どももいます。蟻にどうかかわるかは、子どもの感じ方や性格、発達等により様々です。
乳幼児期の子どもが興味や関心をもった身近な環境とかかわる時には、一緒にいると安心できる大人、信頼できる大人がいることが大切です。集団保育の場では、子どもの保育をする人、つまり、保育士や保育教諭、幼稚園教諭などの保育者と呼ばれる人たちです。
子どもは、安心できる保育者が一緒にいて、興味や関心をもった対象にかかわり、失敗したり、不安になったりした時には保育者のところに戻って気持ちを安定させます。また、自分のイメージを実現したり、面白いことを発見したりしたら保育者にそれを伝えに戻って保育者に共感されてより嬉しくなったりします。つまり、子どもたちはその時々で生じる気持ちを保育者と共有して、いろいろなことを身につけていくとともに、保育者との結びつきを強くしていくのです。
先ほどの蟻の例で考えるなら、蟻を見つけた嬉しさを保育者に共感されたり、蟻の動きが面白いねと保育者と話をしたり、蟻がどんどん近寄ってきて怖くなった気持ちを保育者に受け止められて安心したり、蟻の行列がどこを目指しているのか友達と追ったり、小枝に乗せた蟻を友達に見せたり、穴に入って姿が見えなくなった蟻がどこに行くのだろうと保育者や友達と想像を膨らませたり、蟻がどうやって生活しているのかをもっと知りたくなって図鑑で調べて理解したりしていきます。
集団保育の場とよく言いますが、そこには、一人ひとりの子どもと保育者との信頼による結びつき、安心感が形成され、徐々に子ども同士の結びつき、複数の子どもと保育者の結びつき、クラス全員の結びつきなど、様々な人間関係のネットワークが形成されていきます。子どもたちは、保育者や子ども同士のかかわりのなかで、興味や関心をもったいろいろなことを感じたり、考えたり、一緒に体験・経験したりしながら、成長します。
そして、保育者は子どもたちが感じている楽しさ、面白さ、不安、心配、悩みなどを理解し、子どもたちに寄り添い、子どもが自分自身に対してもつ成長に関する願いを受け止め、願いが叶うように援助をしています。
保育の場では、学ぶ側の子どもが主人公です。保育者は子どもを理解した上で生活を一緒につくっていき、寄り添いながら成長を支えています。
子どもの心の声に耳を傾け、子どもの思いを実現したい、そのようなことに興味をもたれたら、保育の世界を覗いてみられてもよいのではないでしょうか。