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サッカーのポジションいまむかし:「半分うしろ」から「真ん中」へ

投稿日:2023年02月09日

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今日、サッカーのポジションはゴールキーパー(GK, goalkeeper)、ディフェンダー(DF, defender)、ミッドフィルダー(MF, midfielder)、フォワード(FW, forward)の4つに大別するのが一般的です。これらによって、GKを起点に、フィールド内の選手の立ち位置が順に前へ移るのが分かります。しかし、英語名を個々に語構成の面から見ると、命名の基準に明確な一貫性がないことに気づきます。例えば、ゴールキーパーは “goal”という「場所」、“keep”という「タスク」、そしてそのタスクを遂行する「人」の“-er”という3つの成分で構成されています。同様の見方をすれば、ディフェンダーは“defend”という「タスク」と「人」の“-er”の2つ、フォワードは「フィールドの前の部分」を意味する“forward”という「場所」単独の成分でそれぞれ構成されています。一見、無秩序のようではありますが、ここに歴史的視点を導入すると、命名に一定の方向性が見えてきます。今回は、ゴールキーパーを除く3つのポジションについて、特にミッドフィルダーを中心にこの問題をさぐります。

図1は最初期のフォーメーションで、「2-3-5」の陣形となっています。19世紀末のイングランド発祥で、1890年代には世界標準となりました。ここで注目すべきは3つのポジションの呼び名、すなわち2人のフルバック(fullback)、3人のハーフバック(halfback)、そして5人のフォワード(forward)です。この命名の前提には、「フォワードの後ろはバック(back)」という二分法的な発想があったようです。すなわち、前線として攻撃をタスクとするフォワードの背後には、守備をタスクとする広大な面、バック(back)が存在するという空間認識です。そしてその広さゆえに、フォワードの位置から自陣ゴールまでの距離を基準にハーフバック、フルバックと呼んで区別したのではないでしょうか。このようにサッカーのポジションは、元々、フィールド内の「場所」を基準に一貫した命名がなされ、タスクも攻撃のフォワード5人と守備のハーフバック及びフルバック5人で数的なバランスが保たれていたことが分かります。

その後、フルバックはバック(back)、ハーフバックはハーフ(half)と呼び名が短くなります。私見ではこの変化こそ、かつてのハーフバックを守備偏重の地味なタスクから解放し、今日の躍動的なミッドフィルダーに変貌させる契機ではなかったかと考えています。

図2は、現在でも一般的な「4-3-3」のフォーメーションです。これは4人のディフェンダー、3人のミッドフィルダー、そして3人のフォワードで構成される陣形です。それぞれの呼び名は、実は、最大限「タスク」を念頭に置いたものといえます。これは、戦術(tactics)の組織化・高度化というサッカーそのものの進化と無関係ではないでしょう。フォワードは当初のままですが、それでも敵ゴール前のポジションであることから、攻撃というタスクは明白です。一方、かつてのフルバックあるいはバックはディフェンダー(defender)に取って代わられ、「人」の“-er”を伴ってそのタスクを明示する名称となりました。ポイントは、フォワードを攻撃の「前線」、ディフェンダーを守備の「最終ライン」と呼んで、それぞれを線的に認識し得るという点です。すなわち今日の空間認識は、フォーメーションの両極を画する2本線の間に横たわる広大な面、「中盤(midfield)」が存在するというものではないでしょうか。このポジションには、局面に応じて守備から攻撃、あるいはその逆といったチームプレイのトランジション(切り替え)を主導できる選手が配置されます。つまり彼らが繰り広げる多彩なタスクは、守備・攻撃のいずれかに限定できるものではないのです。ミッドフィルダー(midfielder)は、フォワードが継承する「場所」の伝統と、ディフェンダーに込められた「人」の“-er”が発揮する今日性を兼備する中庸の呼び名であるだけでなく、フィールドのセンターに咲き誇る花形に相応しい呼び名ともいえるでしょう。

こども心理学部

宅間 雅哉

宅間 雅哉
(TAKUMA Masaya)

プロフィール
専門:英語学(史的研究)、地域研究(イングランドの気候地名研究)
略歴:早稲田大学教育学部卒業
早稲田大学専攻科修了
国際基督教大学大学院教育学研究科博士前期課程修了
山梨英和大学教授(2012年3月まで)

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