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つなぐ作法「金の美+繕いの美」

投稿日:2024年07月19日

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 中高生対象のアート講座を、6月に本学の図工室で行うようになって3年目を迎える。初回は「印象派に学ぶ補色対比」、昨年は「デフォルメ(協調と省略)を学ぶ」をテーマに、講義と手慣らしの造形を組み、最後の出力はてのひらに残る立体(レジン液を用いた色合いの美しいストラップや自作のキャラクタープラバン等)とした。

〈第1段階/構想〉
 今年のテーマについては、以前ナカムラクニオさんから教えていただいた金継技法をヒントに、日本人が大切にしてきた繕いの美と金色パワーに迫りたいと考えた。「繕う」という漢字は「糸で善くする/整えよそおう/破れたり、壊れたりしたところを直す/repair/mend」の意味をもつ。昔の接着剤である漆(うるし)は樹液であり、最終的に黒く変色して固まる。「蒔絵:まきえ」は、漆で描いた絵に細かい金粉を蒔いてつくられることからこの名が付いた。今回は利便性の上からナカムラ方式の「セメダインエポキシ系パテ(金属用)」で接着し、合成漆に金粉を混ぜたものをのせるという方法で進めることにした。広報あだちに案内を掲載するためには諸々制約があり、6月実施の一月前の5月25日に掲載するためには、さらに2か月前の3月末には要約した原稿を出すことが求められる。3月の初回打合せで構想を共有してスタートした。

〈第2段階/試作&フライヤー作成〉
 4月早々スタッフとして活躍してもらう3年ゼミ生と試作を始める。というのもフライヤーに掲載する写真画像を第2週目までに提出しなければならないからだ。学生は当初の予定である①画面左上の垂直線がまるで金継のラインのような雪舟筆「秋冬山水図(冬図)」鑑賞②金色のアクリル絵の具を用いた描画、③シーグラスやビーズなどを組み合わせたオブジェづくりなどに没入する。青少年課の福井さんが、「アートで遊ぶ、アートで学ぶ」という素敵なキャッチコピーを提案してくれ、ゴールド感漂う素敵なフライヤーが完成した。

〈第3段階/材料収集・ビーチコーミング〉
 オブジェの材料集めのために、週末に日立市の河原子海岸まで出かけた。波に洗われた角のとれた石が綺麗で、思わず沢山拾ってしまい石拾いの1時間となる。時折、きらりと光るガラス片や陶片に出会う。一握りのシーグラスと様々な色合いの石を収穫、翌週は日立から南に下がり、白亜紀の穴の開いた石も含めて、キャリーケースに詰めて北千住に運ぶ。

〈第4段階/活動内容と流れの再検討〉
 6月になり、内容の最終検討。地元足立区で金色づかいを探す。足立区郷土博物館「大千住展」(2015)の資料によると、江戸型の三層構造の山車(だし)は、一層目に静御前の人形、二層目は鶴の舞う幕、朱色の地に金の刺繍が施されており、ここにおめでたい金色の鶴を発見!さらに墨田川沿いは富士見の名所で、北斎の冨嶽三十六景にも「武州千住」(昔の大煙突があった辺り)、「墨田川関屋の里」(仲町に顕彰碑がある。関屋は松の名所でもあったそう)の図版を見つけ、こちらも見とれてしまう。最終的な活動案として以下の4つに集約させた。❶資料から江戸時代の千住に思いをはせる。❷雪舟の水墨画の濃淡の美を鑑賞後に、固形水彩絵の具を用いた単色の濃淡画で手慣らし❸ゴールドのアクリル絵の具を用いて、石や黒のコースターや黒い皮に加筆する。 ❹金継パテの実例と扱いを知り選んだ素材を組み合わせてオブジェやストラップをつくる。

〈第4段階/実践と総括〉
 定員25名のところ60名の応募があり、胸の痛みを感じつつ、抽選によって選ばれた中学1年生10名、中2年生11名、中学3年生4名、高校1年生1名の皆さんと楽しく学びの場を展開させていただいた。特に参加者から「ふだんあんまり使わない金色やうるしを使うことができた」「いつもはスマホなどで絵を描くのにとどまっているので、絵の具をつかったり立体的にしたり組み合わせて楽しいことを知れた。」「パテが嘘のように固くなった」など新たな材料との出会い、「自分なりの作品を作れた」「何かにしばられず自分の好きなようにできて楽しかった」等自分の志向性を発揮できたこと、「金の美しさや構成を考えながらできた」「水墨画の濃淡の違いで距離や明るさを表現できることを学んだ」など美的な方法論、「大学は固く窮屈な所であると思っていたが、意外と柔らかい雰囲気だった」という感想もあり、概ねアート体験と本学に好印象が得られたようであった。ドローイング導入の資料を印刷し忘れたり、人口漆の希釈に使う溶剤を一部誤って沢山入れてしまったりなど失敗もあった。今後は美しい所作のためにスポイトの準備を怠らないようにしよう。

こども心理学部

髙橋 文子

髙橋 文子
(TAKAHASHI Fumiko)

プロフィール
専門:美術教育
略歴:千葉大学教育学部小学校教員養成課程卒業、
茨城大学大学院教育学研究科教科教育専攻美術教育専修修了
茨城県内の公立小中学校、茨城大学教育学部附属中学校教諭を経て現職。

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