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「食べることが好き」から何がはじまるか

投稿日:2022年10月06日

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「食べることが好き」,と言われても,唐突すぎていったい何のことやら訳がわからないと思われる。順を追って話をしよう。

ある日のこと,まだ蒸し暑さに苛まれないくらいの時期,そして学生の賑やかさが薄れた時間帯,自分の研究室の前でA女史先生と遭遇した。
ちょっとした世間話の後に,「なんで鈴木先生は食べるのが好きなの?」との質問を投げかけられた。「うーん」とちょっと返事が滞る。私が食べることを好きなのをよく把握されていての質問なので,質問自体は不思議では無いのだが,いざ「なぜ?」と言われるとすぐに答えが出てこない。
「美味しいものを食べると楽しいし・・・」などとごにょごにょしているうちに,「食べるのに興味が無い人もいるよね,なんでだろう」という話になってきた。
世の中には,食べることや食べるものに興味が無い人も確かにいる。(自他共に認める)食べることが大好きな私としては理解しにくいが,確かにいる。

さて,こうなってくると,考えが広がっていく。
まず,どのような背景によって,食べることが好きになっていくのか。食べることが好きな人というのは,どういう食の経験を積み重ねて来たのか。どのような家庭の食環境があったのか。どのような食への関わりがあったのか。
もう一つ考えられる。食べることが好きということは,どのような心理的な影響をおよぼすのか。素朴に考えると,食べることが好きな人ほど人生を楽しんでいたり生活が充実しているようなイメージがあるが,本当にそうなのか。別に食べるのが好きでは無くても,趣味などを楽しみ,充実した日々を送っているのかもしれないが,さて,どちらであろうか。

こうなってくると心理学の研究になってくる。テーマらしく書いてみるとこのような感じであろうか。
1)「食経験が食べることへの興味・関心におよぼす影響」
2)「食べることが人生満足度や幸福感に及ぼす影響」
この2つを軸に研究が展開できそうである。さらに,食べる楽しみの経験を重ねるような介入をおこなうことによって,日々の充実感が増すかどうか,といった発展も考えられる。これはいい,来年あたりにやってみようか。

こうやって,たわいの無い雑談から心理学の研究が生まれてくるのである。たぶん。人のかかわるものすべてが心理学の研究になりうるからこそ,このような展開が可能ともいえる。このように日常に密接に関連しているテーマを扱うところが,心理学の研究の楽しさの一つだと考えられよう。

なお,もし研究によって「食べるのが好きだと幸福感が高い傾向がある」という結果が得られたとしても,それをもって「食べるのを楽しみましょう!」と押しつけるのはよろしくない。研究知見は正しさとして振りかざすものではない。あくまでも,知見を呈示するぐらいがいいところである。あとは,個々人がそれを取り入れるかどうか選択すればよい。

ともあれ,こうやって新しい研究テーマが見つかった。喜ばしいことである。このように新しい研究テーマを考えているときが,研究者として一番楽しい時ではないだろうか。

そして・・・,どう話が広がろうとも,どのように研究しようとも,ともかく私は「食べることが好き」なのである。

追伸: そういえば,SDGsに則した内容にしないといけないのであった。何が良いか・・・あ,古い言葉があったので修正しないといけない。男女平等の観点から現在は使うのが好ましくない言葉らしい。サイトアップ時には修正してもらおう。昔は格好良いイメージがあったのだが・・・。時代は変わるものである。

こども心理学部

鈴木 公啓

鈴木 公啓
(SUZUKI Tomohiro)

プロフィール
専門:心理学
略歴:東洋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。
東洋大学や明治学院大学等の非常勤講師、東洋大学HIRC21のPD研究員を経て現職。

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