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「平等」であるとはどういうこと?:障害者との対話から学ぶ、社会正義のカタチ

投稿日:2025年02月06日

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近年、国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)の中でも特に注目されているのが、「誰一人取り残さない」という理念です。この理念を実現するためには、私たち一人ひとりが、すべての人々の尊厳と権利を守り、支え合う「社会正義」の精神を持つことが大切です。社会正義とは、社会における資源や機会が公平に分けられることを意味します。しかし現状では、障害のある人々が、教育、就労、社会参加など様々な場面で不利な状況に置かれているケースが少なくありません。

国連の「障害者の権利に関する条約(Convention on the Rights of Persons with Disabilities)」では、障害者を「長期にわたる身体的、精神的、知的、または感覚的な機能の障害がある人」と定義しています。そして、これらの障害が「社会の態度や環境による壁と相互に作用することで、他の人々と平等な社会参加を妨げている」と述べています。日本でも、2013年に障害者差別解消法が、2023年に改正法が施行され、民間企業も含めて障害者に対する「障害を理由とした差別」を禁止しています。
このように、障害のある人々への支援では、このような社会的な不利益をなくし、障害者が社会の一員として自立し、自分らしく生きられる環境を整えることを目指していると言えます。

障害を理由とした差別をなくし、障害者が他の人々と同じように人権を享受・行使できるよう、個々のニーズに合わせて必要かつ適切な変更・調整を行うことを「合理的配慮」といいます。大切なのは、一方的に「配慮する」という姿勢ではなく、障害のある当事者との対話を通して、共に最適な方法を探していくことです。合理的配慮を実現するためには、障害者と周りの人々が、お互いの立場や考えを尊重し、理解し合う「建設的対話」が欠かせません。
このような対話を通して、障害者の具体的なニーズや困難を把握し、それに応じた支援方法を考えることで、実質的な平等が実現できます。また、こうした対話は、周りの人々の障害に対する理解を深め、偏見や差別の解消にもつながるでしょう。

一方で障害者支援において、「支援」という名のもとに、障害者に社会への適応を強いるような関わりが行われてきた歴史があります。
例えば、聴覚障害者に対する「口話教育」では、「将来の社会生活のために」と、聴覚を活用した発声や読唇術の習得、当事者の言語である日本手話の習得に対して推奨されてきました。これは、聞こえないことによる社会生活上の不利益や負担を、障害のある側にのみ押し付け、社会や環境の障壁を変えようとしてこなかった例とも言えるでしょう。わたしたちは、社会正義を実現するために、社会や組織が変わっていくことを勇気づけ、自らが個人の尊厳や権利を侵害していないか、ふりかえる必要があるのです。

このように、「社会正義」を考えるとき、支援者は、時に善意から、当事者に社会生活上の不利益を「我慢させる」ような関わりを行ってきたことがありました。専門家として、障害者やその家族と関わる時には、その支援が一方的な関わり(パターナリズム)に陥らないよう注意が必要なのです。そのため、専門家自身が、自らの関わりが持つ影響力や、自分自身に働いている社会的な相互作用について、常に意識的であることが求められています。

こども心理学部

大橋 智

大橋 智
(OHASHI Tomo)

プロフィール
専門:応用行動分析、臨床心理学的地域援助
略歴:明星大学大学院人文学研究科心理学専攻(臨床心理学コース)博士前期課程修了。
立教大学現代心理学部心理学研究科博士後期課程単位取得満期退学。
教育相談室にて教育相談員を経て、明星大学心理学部実習指導員、非常勤講師、2018年4月に本学講師。
埼玉県の特別支援教育にかかわる巡回相談や幼稚園、保育園における巡回相談に従事。
臨床心理師、公認心理師。

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