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社会の諸問題は他人事?

投稿日:2022年12月01日

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 私が担当している「社会福祉」の授業では「LGBTQ+(SOGIマイノリティ)」「障害者」「ホームレス」など、マイノリティとされる人びとをとりまく諸課題についてとりあげています。皆さんはこのようなトピックについて、関心はありますか?「自分の周りにいないからわからない」「自分とは違う、他人事。まるで遠い世界の話のようだ」「当事者ではないからよくわからない」という感想でしょうか。ただ、もしそのような感想を抱くのであれば、ぜひ次の点について考えてみて頂ければと思います。
 まず障害者についてです。このコラムを書いている現在、目黒蓮さんと川口春奈さんが主演しているドラマ「silent」が話題になっていますが、目黒蓮さん演じる、佐倉想は高校卒業後に「若年発症型両側性感音難聴」を患い、聴力をほとんど失ってしまった中途障害者です。ホームレスに関しても増田明利さんの著書『今日、ホームレスになった』の中には、「まさか自分がホームレスになるとは・・」との、ホームレス当事者の方の声が多く掲載されています。さらに、LGBTQ+(SOGIマイノリティ)に関しても、自分自身の性的指向は変化する場合があることがSpitzer(2003)など、幾多の研究で明らかになっています。人の性的指向は連続体(スペクトラム)のうえに存在しています。皆さんも好みのタイプが年齢とともに変化したことがあるかもしれません。同様に、人生の中で異性愛の性的指向が変化し、同性愛になることもあり得ることなのです。なお、性的指向の変化については自分自身でコントロールできないことも明記しておきます。
 ここまで見てきたとおり、そもそも個々人のアイデンティティはHall(2017)が「個人は複数の文化・アイデンティティを所持している主体であり、文化・アイデンティティは常に変容している過程にある」と述べているとおり、複数であり、変容するものです。人は皆、マイノリティ当事者になる可能性があります。他人事ではないのです。
 また、もし仮に自分がマイノリティ当事者ではなかったとしても、マイノリティが抱える課題はあなた自身も共有しています。この点について、Butler(2015)は「不安定性(プレカリティ)」という概念を提唱しています。多くの人は、特定のマイノリティの当事者ではないかもしれません。ただ、マイノリティ当事者が直面している「不安定性」は誰もが共有しています。「不安定性」とは、日常生活において、適切な保護や救済がなければ、住民が直面するであろう病気、貧困、飢餓、暴力などに対するリスクのことです。人はマイノリティ当事者であろうと、なかろうと、日常における「不安定性」を共有しているのです。
 社会に多くある諸課題について、他人事とは思わずに、ぜひ自分のこととして捉え直してみてください。


本稿では障害はその人の身体的、精神的、知的特徴によって生じているのではなく、社会によって生み出されているという「障害の社会モデル」の観点から、「障害」と漢字で表記しています。

引用文献
増田明利(2021)『今日、ホームレスになった:大不況転落編』彩図社.
Butler, Judith (2015) Notes Toward a Performative Theory of Assembly, Harvard University Press.(=2018,
 佐藤嘉幸・清水知子訳『アセンブリ:行為遂行性・複数性・政治』青土社.)
Hall, Stuart (2017) The Fateful Triangle: Race, Ethnicity, Nation, Harvard University Press.
Spitzer, Robert (2003) Can Some Gay Men And Lesbians Change From Homosexual To Hetero Sexual
 Orientation
, Robert L. Spitzer in Archives of Sexual Behavior, Vol.32, No.5, 403-417.

こども心理学部

白石 雅紀

白石 雅紀
(SHIRAISHI Masanori)

プロフィール
専門:社会福祉、国際福祉、児童福祉
略歴:岩手県立大学社会福祉学部卒業
岩手県立大学社会福祉学研究科博士後期課程修了
秋田看護福祉大学社会福祉学科助教
修紅短期大学幼児教育学科講師

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