皆さん、読書はお好きですか。1か月に何冊くらい本を読みますか。
前職の小学校の子どもたちは、朝読書の時間をとても楽しみにしていました。幼児も本が大好きで、先生の読んでくれる絵本や紙芝居に真剣に耳を傾けています。
しかし、全国学校図書館協議会による「第68回学校読書調査(2003)」では、2023年5月1か月間の平均読書冊数は、小学生が12.6冊、中学生が5.5冊、高校生が1.9冊、また、不読者(5月1か月間に読んだ本が0冊の児童生徒)の割合は、小学生が7.0%、中学生が13.1%、高校生が43.5%とあり、学齢が上がるにつれての読書離れが報告されています。
勉強や部活動で忙しくなる等様々な要因があると思いますが、要因の一つとして、文種に応じた読み方を知らない、という課題があるのではないかと考えています。紙面の都合上、以下、物語や小説などの文学作品の読書について考えてみたいと思います。
文学的文章には「語り」と「描写」という二つの文体があります。「語り」はストーリーを進めるための文体で、「……そして、10年が過ぎました。……」のように、一文で一気に時間が進むこともあります。
一方、「描写」は、「文字で描いた動く絵」とも言われ、人物の様子や周りの情景、クライマックスの出来事等を詳細に描く文体です。たった数分の出来事が何頁にもわたって綴られることもあります。絵本や挿絵の多い児童書を経て、文字中心の物語や小説を楽しむためには、詳細な「描写」を読み、自分の脳裏に絵画的・動画的なイメージを描き出す力が必要になります。その上で、それがどのような意味を持つのかを理解する必要もあります。
例えば、小学校の教材「スイミー」では、きょうだいをまぐろに食べられてひとりぼっちになったスイミーが、次第に元気を取り戻す場面で以下のように記述されています。
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けれど、海にはすばらしいものがいっぱいあった。おもしろいものを見るたびに、スイミーは、だんだん元気をとりもどした。
にじ色のゼリーのようなくらげ。/水中ブルドーザーみたいないせえび。/見たこともない魚たち。見えない糸でひっぱられている。/ドロップみたいな岩から生えている、こんぶやわかめの林。/うなぎ。かおを見るころには、しっぽをわすれているほど長い。/そして、風にゆれるもも色のやしの木みたいないそぎんちゃく。
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(令和二年度版 小学校国語教科書二年上 光村図書 pp.64-73 下線は篠原による)
この文章を読んで、まず、自分の頭の中に色彩豊かな海の中の絵を描くことができればこの場面を楽しむことができます。その上で、面白いものを見る体験は人を元気づける、ということが理解できればもっと面白く読めます。さらに、多くの人生経験を経た大人であれば、悲しい体験から時が過ぎ心の傷が癒えてきたから、周りの面白いものに気付くことができた、つまり悲しみも時が解決してくれる、という読み方もできるでしょう。このように、「描写」は、何層もの読み方ができるところが魅力であり、文学的文章の中枢の部分です。
「語り」と「描写」を区別したり、「描写」の読み方を体得したりするには国語科の授業での学習が必要です。大人になっても読書を楽しむ人が増えることを願って、今後も指導法の研究を続けていきたいと思います。