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旅立ちのとき ~エリクソンの発達課題が示すもの~

投稿日:2024年03月27日

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 3月の中旬、本学でも卒業式・学位授与式が行われ、学生たちは、それぞれの道に旅立っていきました。

 とてもおめでたく、喜ばしい事である一方で、2年間指導をしていたゼミの学生たちも、無事に旅立っていきましたので、ほんの少しだけ(?)、寂しくもあります。ちなみに、今回卒業していったゼミの学生は、前回私が担当したブログ(未来をみつめるということ~時間的展望~ 参照)で取り上げていた、

「将来はバリバリ働いていたい」、「◯◯の資格をとりたい」、「まだわからない」、「いまは考えられない」、「イベントで成績を残したい」、「たくさん眠りたい」

と答えていた学生たちです。あれから、就職活動や卒業論文を乗り越えて、「4月から社会人になるのが信じられない!」と口にしながら、また、不安と期待が入り混じりながらも、晴れの日を迎えた学生たちは、とても輝いておりました。

 ところで、発達心理学において、人の生涯を様々な側面にたち、各段階を分けてとらえる「発達段階」という考えがあります。この中でも広く知られている、エリクソンの理論(Erikson,E.H., 1959, 1963)では、人の生涯を8つの時期に分けて、各段階において、心理・社会的発達に成し遂げなくてはならない課題(発達課題)を設定しています。なお、その課題を達成できなければ心理的危機が訪れるとされています。厳密な年齢区分が当てはまらない部分もありますが、思春期以降~大学を卒業するくらいまでの年齢の人々は、「青年期」に属します※。この時期には、「同一性(の獲得)」、すなわち「アイデンティティの確立」が、発達課題とされ、「自分が何者であるか」という問いに対する答えを見つけることが求められます。その時期を過ぎると、成人期(成人前期)とされ、「親密性」が発達課題です。これは、他者との完全な親密な関係を確立することとされています(西村,2018)。つまり、エリクソン(Erikson,E.H., 1959, 1963)によれば、青年期に確立されたアイデンティティを前提に、それを保ちつつも、他者とのアイデンティティの融合をすることであり、それが親密性を導くとされています。これが欠けていると、就職、結婚、親しい友人関係を得ることも難しく、心理的危機である「孤立」の状態になる可能性があるとされています。そういった意味では、大学時代に形成したアイデンティティはもちろんのこと、さらには、大学時代に身につけた様々な能力や培った経験を、次のステップに活かしていくともとれるように感じます。

 社会に出る皆さんのご活躍とご多幸をお祈りしつつも、もう新年度です!次に送り出すべき学生、授業で新たに接する学生、新入生たちに囲まれながら、また怒涛の日々の始まりです。

※青年期は、24、25歳くらいまで、あるいは30歳程度までを広義の青年期とすることもあります。

Erikson, E. H. (1959). Identity and the Life Cycle. New York: International Universities Press. 小此木圭吾(訳) (1973). 自我同一性-アイデンティティとライフサイクル 誠信書房

Erikson, E. H. (1963). Childhood and Society. 2nd ed. New York: Norton 仁科弥生(訳) (1977). 幼児期と社会 みすず書房

西村純一(2018). 成人発達とエイジングの心理学 ナカニシヤ出版

モチベーション行動科学部

島内 晶

島内 晶
(SHIMANOUCHI Aki)

プロフィール
専門:高齢者心理学、生涯発達心理学
略歴:明治学院大学大学院心理学研究科博士後期課程修了。
地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター研究所(旧、東京都老人総合研究所)研究補助員および研究生、
群馬医療福祉大学社会福祉学部福祉心理コース准教授を経て、現職

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