「いらっしゃいませー」「これください」…幼稚園でのお店やさんごっこ。お店には、色紙や毛糸などで作ったアイスクリームやケーキ、お寿司、ジュースなどが並びます。年長児が開いたお店やさんにやってきて、お買い物を楽しむ年中・年少児たち。園生活に慣れ、異年齢の関わりが増え始める頃にみられる遊びの風景です。
ところが、近年、このお店やさんごっこに変化がみられるというのです。お買い物自体は楽しんでいるものの「何がありますか」「メロン味とイチゴ味です」「じゃあこれください」「100円でーす」といった言葉のやりとりがまったく見られず、無言のお店やさんごっこになっている子が増えたというのです。もちろん、繰り返し楽しんでいくうちに、言葉でのやりとりも楽しめるようになっていくのですが…。
考えてみると、今の子どもたちは、お店でそんなふうに人と関わり、言葉を交わし、お金のやりとりをするようなお買い物の体験自体がなくなっているのではないでしょうか。特に、子どもが小さいうちは、ネットショッピングや宅配を利用する家庭も多いことでしょう。クリックひとつで、翌日には品物が自宅に届く様子は、子どもたちの目にどのように映っているのでしょうか。最近は、実際の店舗にいってもセルフレジというところも少なくありません。人とのやり取りやお金のやりとりが介在しなくなってきているのです。まさに、子どもたちのごっこ遊びは、日常生活や社会を映し出す鏡です。実際、ウーバーイーツごっこもみられるとのこと。私たち大人が鈍感になって気づかずにいることが、子どもたちの遊びの中に逆照射されているようです。
SNS等の情報通信サービスの普及、キャッシュレス化の進展、中食産業の発展などによって、私たちの生活はとても便利になっています。でもその反面、人間関係やお金の流れ、調理の過程など、見えにくくなってしまったものも多いのです。「見えない化(不可視化)」は社会のあらゆるところで進行し、子どもたちの日常からさまざまな実体験を削ぎ落としていきます。ブラックボックス化する社会の中で、今後は目に見えないものをみる感性を育んでいくことも大切になっていくように思います。
環境指導法の授業の中でもトマトの栽培をしましたが、保育のなかでは野菜を育てて自分たちで調理をしたり、あるいはどんぐりひろいをしてどんぐり饅頭をつくったり、どろんこ遊びをしたり…と、手間暇や過程そのものを楽しむ活動がたくさんあります。効率性ではなく、手間暇や過程を楽しむ時間の中にこそ、五感を使って心と体を動かす体験や、子どもの豊かな育ちがあると考えるからです。私たちも、不便なことや少し面倒だと思えることを子どもといっしょに楽しんでみると、時間に追われる中では見えなかった豊かさや喜びを見つけられるかもしれません。
さて、別冊太陽『絵本で学ぶSDGs』(平凡社、2022.9)では、SDGsが目指す17のゴールごとに絵本が紹介されています。今まで何気なく読んでいた絵本が、SDGsにつながっていたという新たな発見もありますし、なによりSDGsがとてもわかりやすく身近に感じられます。私も「貧困をなくそう」の項目で『たんじょうび』(レイフ・クリスチャンソン文、ディック・ステンベリ絵 岩崎書店)という絵本について書かせていただきました。短い言葉で綴られたちいさな絵本ですが、改めて世界の経済格差を思い知らされる作品です。貧困や差別など、目に見えなくても私たちのすぐそばに存在しています。世界の人たちみんなが幸せに暮らせるよう、ここでも見えないものに思いを馳せ、自分事として考えていく、見えないものをみる感性が必要とされています。