2022年4月より改正育児・介護休業法が施行され,10月から男性の育児関与を促進するための「産後パパ育休」制度が始まりました。2023年7月に男性育児休業等取得率の調査結果の速報値が公表されましたが,前年度の育休等取得率が17.1%であったのに対し,今年度は46.2%まで上昇しています。これから,男性も育児に関与しやすい社会が実現していくことが期待されます。
日本は世界と比較しても,特に家事・育児時間の男女差が大きいことが指摘されてきましたが,近年,まだまだ十分とは言えないものの,少しずつ状況が改善されてきています。総務省の社会生活基本調査では,家事育児時間について,2001年時点では夫が48分,妻が7時間41分であったのに対して,2021年時点では夫が1時間54分,妻が7時間28分という結果が示されています。女性は男性と比べて4倍近くの家事育児時間となっているものの,20年前と比較して男性の家事育児時間が2倍以上に増えているのは,良い傾向であると言えるでしょう。
さて,父親がさらに育児に関与するようになるためにはどうしたら良いでしょうか。労働環境や制度的な課題もありますが,心理学的な観点で考えてみたいと思います。なぜ人は育児をするのだろうかと考えた時に,育児をするのは親として当然であると考えるのが一般的ではないかと思います。しかし,児童虐待や育児放棄等の問題も存在するように,育児をしない,あるいは,あまりしたくないと感じる人もいます。育児には大変なことや辛いこともありますが,子どもを育てる喜びは何にも代えがたく,育児をやりたいという気持ちを育てることが,父親が積極的に育児に関与することに繋がると考えられます。
何かやりたいという気持ちは,心理学では動機づけ(モチベーション)という領域で研究されています。例えば,教育の分野ではどうしたら人は学習しようと思うのかといったことが古くから研究されています。この動機づけという観点から育児について研究されることはほとんど無かったのですが,近年,育児動機づけについての研究が少しずつ行われてきています。私たちの研究グループが行った調査(大内・野澤・萩原,2019;野澤・大内・萩原;2022)の結果では,父親が育児に対して遣り甲斐や楽しさを感じているほど実際に育児関与するようになる一方で,周りから言われるから育児をしなくてはならないと感じているほど育児に関与しなくなることが分かりました。また,母親が父親の育児に対して促進的に関わっていることと父親は育児に対して遣り甲斐や楽しさを感じることが関連し,逆に母親が父親の育児に対して批判的に関わっていることと父親が周りから言われるから育児をしなくてはならないと感じることが関連していることが分かりました。父親が育児に積極的に関与するためには,育児の遣り甲斐や楽しさを感じること,そして,夫婦間で良いコミュニケーションを取ることが大切だということになります。
「産後パパ育休」制度を活用して,早くから父親が育児に関与し子どもと関わる喜びを体験すること,夫婦で育児について話し合いながらどう育児協働を実現していくかを考えていくことが,父親の育児関与を促すことに繋がり,子ども達の健やかな育ちが実現されていくのだと思います。
大内善広・野澤義隆・萩原康仁(2019).自己決定理論に基づく父親の育児意欲尺度の作成 日本心理学会第83回大会
野澤義隆・大内善広・萩原康仁(2022).父親の育児動機づけが家事育児行動に与える影響 日本発達心理学会第33回大会