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「みんなそうしている」の正体― SNSアルゴリズムと人の心 ―

投稿日:2026年07月09日

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アルゴリズムがつくる「おすすめの世界」
 先日、動画配信サービスで弁護士ドラマを一本見たところ、翌日には法廷ドラマやリーガルサスペンスばかりがおすすめに表示されるようになりました。
 自分の興味に合った作品を紹介してくれる便利な仕組みですが、もし最初に料理番組や旅行番組を見ていたら、まったく違う作品がおすすめされ、違う世界が広がっていたのではないかと思いました。

一人ひとり違うタイムライン
 SNSも同じかもしれません。私たちは毎日たくさんの情報に触れていますが、実際には誰もが同じものを見ているわけではありません。
 一人ひとりの興味や行動に合わせて、アルゴリズムが少しずつ異なる世界を作り上げています。
 私たちが少しでも興味を示した話題を見つけると、アルゴリズムは関連する情報を次々と届けてくれます。
 受験が気になれば受験の情報が増え、健康を意識すれば健康に関する情報が増えていきます。そうして関連する情報を繰り返し目にすることで、その話題がますます身近なものに感じられるようになります。

「みんなそう思っている」の正体
 もちろん、興味を持つこと自体は悪いことではありません。新しい知識を得たり、趣味を深めたりするためには欠かせないものです。
 ただ、ときどき私たちは少し勘違いをしてしまいます。「みんな就職活動のことばかり話している」「みんな将来を不安に感じている」と思うことがありますが、実際には「みんな」ではなく、自分のタイムラインに集まっている人たちだけなのかもしれません。
 心理学には、「利用可能性ヒューリスティック」という考え方があります。利用可能性ヒューリスティックとは、事例や出来事を思い出しやすいかどうかに基づいて、その頻度や起こりやすさを判断する傾向のことです(Tversky & Kahneman, 1973)。そのため、人は思い出しやすい情報や繰り返し目にする情報ほど、「世の中ではよくあることだ」と判断しやすい傾向があります。毎日同じような話題を見続けていると、それがあたかも社会全体の実態であるかのように感じてしまうことがあります。これも、利用可能性ヒューリスティックによる自然な認知の働きの一つといえるでしょう。

容姿の情報も増え続ける
 この仕組みは、容姿に関する情報でも同じです。
 美容やダイエット、メイクの投稿を少し見ただけでも、似たような投稿がおすすめに並ぶようになり、「みんな美容に気を使っている」「もっときれいにならなければ」と感じる人もいます。
 もちろん、美容を楽しんだり、自分らしいおしゃれを楽しんだりすることは素敵なことです。
 ただ、アルゴリズムによって似た情報ばかりが集まると、実際以上にその話題が大きく見えてしまうことがあります。
 現代の若い世代が容姿について考える機会が増えている背景には、こうした情報の集まり方も少し影響していると思われます。

タイムラインは世界そのものではない
 同じSNSを使っていても、人によって表示される情報は異なります。だからこそ、何か一つのことが気になって仕方なくなったときには、「本当に世の中全体がそうなのだろうか」と一度立ち止まって考えてみることも大切です。
 SNSとアルゴリズムは、私たちの生活を便利にしてくれる心強い存在です。しかし、それは世界そのものではなく、世界の一部を映している窓のようなものです。窓の外には、自分のタイムラインには映っていない景色が、思っている以上に広がっているのではないでしょうか。

引用文献
Tversky, A., & Kahneman, D. (1973). Availability: A heuristic for judging frequency and probability. Cognitive Psychology, 5, 207–232.

こども心理学部

大村 美菜子

大村 美菜子
(OMURA Minako)

プロフィール
専門:臨床心理学
略歴:立正大学大学院心理学研究科博士後期課程修了。
北里大学や東京成徳大学等の非常勤講師、目白大学心理学部助教を経て、現職。

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