
「育児をしない男を、父とは呼ばない」
これは、1999年に当時の厚生省が、父親の育児啓発ポスターに打ち出した標語です。
大変インパクトのある標語でしたため、当時は賛否両論の反響を呼んだそうです。
では、なぜ国は男性の育児を促す必要があったのでしょうか。
戦後の日本は、高度経済成長期に入ると産業構造が大きく変化していきます。それにより仕事と生活の場の分離が進むとともに、国の政策も相まって、仕事に出かける父親と家庭で家事や育児を行う母親という、性役割分業とその意識が定着していったと言われています。「専業主婦」という言葉が出てきたのもこの頃です。
その後、いくつかの要因(この要因の話は別の機会に!)により、1970年代の中頃から女性の労働力率が上昇し、兼業主婦が徐々に増加していきます。これまで家事や育児を担ってきた母親が仕事も担うようになるわけですから、当然、母親の負担は大きくなっていきます。そのような状況下で、国は世の中の父親に対して、仕事だけではなく育児に関与させ、母親とともに育児の協同責任を負うよう、父親に対して育児の啓発を行っていたことがわかります。
では、当時の父親はどの程度、育児に関与していたのでしょうか。
国立社会保障・人口問題研究所が1998年に実施した「第2回全国家庭動向調査」の結果によると、全体的には母親の年齢が低い層ほど、父親が育児を担う割合が高い傾向にありました。また、母親の年齢が35歳未満の場合は1割以上、35歳~45歳の場合は2割以上、45歳~49歳の場合は3割弱の父親が、育児は全て母親任せであり、父親は全く育児に関与していないことが示されています。さらに、子どもが1歳未満であっても約1割の父親は全く育児をしておらず、育児は母親に集中していたことがわかっています。加えて、具体的な育児行動をみると、「寝かしつける」は約6割、「食事をさせる」や「おむつを替える」は、父親の約半数がほとんど行っていなかったそうです。このような状況からか、家庭内における平均的な育児の分担割合は、父親が15.5%、母親が85.5%であったことがわかっています。
他方、興味深い結果もあります。それは、どの年齢層においても、母親よりも育児分担の割合が高い父親は1~2%程度、母親と平等に育児を担う父親は4~5%程度いたことです。
この結果を概括すると、多くの家庭において、主に母親が育児を担っていたことがわかります。これは今も昔も、変わらない傾向があるようです。一方、割合や頻度は高くはないものの、以前から育児に関与している父親が存在していたことがわかります。当時は近年よりも性役割分業意識が根強かったと思われますが、育児に関与していた父親がどのような想いで育児に関与していたのかは大変興味深いですね。
さて、上記は標語を打ち出す前の父親の育児関与の状況ですが、この標語を受けて、世の中の父親はより育児に関与するようになったのでしょうか。
その答えは・・・・・ 次 回 に つ づ く。 (次回もお楽しみに!)