COVID-19拡大防止のために小中高に臨時休校が要請されたのが2020年2月末、不要不急の外出自粛要請が出され始めたのも同時期でしたので、私たちが自粛生活を経験してから約3年が経ちました。この強制的な隔離生活によって孤独・孤立の問題が懸念され、2021年には世界で2番目に孤独・孤立対策担当大臣が任命されたことが日本で当時話題になりました。皆さんは少しずつ元の生活に戻っているでしょうか。
COVID-19による孤独・孤立の問題は世界的に生じたものですが、日本ではそれ以前から「ひきこもり」という言葉で孤独・孤立を表す現象が一般的に知られています。また、最近では80代の両親が50代のひきこもり状態にある子どもを支えるという「8050」問題がマスメディアで報じられ、このような家庭が増えているということで「ひきこもりの高年齢化」が注目されています。
それでは本当にひきこもりは高年齢化しているのでしょうか。ひきこもりの調査は対象者にアクセスすることが難しいこともあって、実際にはこの疑問に答えられる明確なエビデンス(証拠)はほとんどありません。このことを調べるためには、定期的に全国の人にひきこもりかどうかを尋ね、ひきこもり状態にある人に年齢をお尋ねする必要があるでしょうが、それが容易でないことはアクセス性やコストの問題から想像しやすいのではないでしょうか。そこで、何か他にこの疑問に対する答えを見つけられ、実際に自分たちで可能な手段がないかを考えました。そして、既存の研究データをまとめることによって「ひきこもりは高年齢化しているのか」という疑問について調べました(Nonaka et al., 2022)。ひきこもりの定義が明確であるものや年齢が記述されているものなどの条件を満たす論文を探すと、日本や中国、韓国、スペインなどで調査された研究52本が抽出されました。そして、それぞれの調査が実施された年と、ひきこもり状態にある人の平均年齢との関連を統計解析の手法を使って分析しました。その結果、調査実施が最近になるほど平均年齢は上昇している傾向がみられました。つまり、社会的に注目され始めているように、ひきこもりは高年齢化している傾向にあることがわかったわけです。ただし、日本以外で実施された調査に限定するとこの傾向はみられませんでしたので、文化的な影響や国全体の高齢化の影響などが関係しているかもしれません。
「8050」問題に代表されるような、高年齢化したひきこもり状態にある人やそのご家族の生きづらさを少しでも減らすために私たちには何ができるしょうか。今以上に高年齢化が進むのであれば今後ますます私たちに問われるのかもしれません。
文献
Nonaka, S., Takeda, T., & Sakai, M. (2022). Who are hikikomori? Demographic and clinical features of hikikomori (prolonged social withdrawal): A systematic review. Australian & New Zealand Journal of Psychiatry, 56(12), 1542-1554. https://doi.org/10.1177/00048674221085917