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「今までに食べた中で一番おいしかったものは?」保育のなかの食への援助

投稿日:2025年01月09日

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 大学では、乳児保育の講義を担当しています。赤ちゃんの発達やその援助に関する内容を扱う科目です。その講義のなかで学生の関心も高く、個人的にも好きな内容が、赤ちゃんの食に関する内容です。講義では、食べるために使う心身の機能について話した後、離乳食や食具を見て、実際に食べたり、発達に合わせた「食への援助」を体験したりします。
 食への援助について話す際に、学生たちに「今までに食べた中で一番おいしかったものは?」という質問をしています。この質問は、藤原辰史先生の書籍『食べるとはどういうことか』で紹介されていたものの真似ですが、食べ物とは?食べることとは?といった様々な問いにつながるとても興味深い問いです。

 この質問に対して、学生たちからは、「誕生日に毎年おばあちゃんが作ってくれるサラダ」、「バスケ部の部活でくたくたになった後に食べたアイス」、「お母さんが作ってくれたカレー(いつも仕事で忙しいお母さん。夕食は買ってきたお惣菜が多かったけれど、時々作ってくれる手作りカレーがすごく好き、とのエピソードつき)」といった回答が返ってきました。日々の講義の中だけでなく、保育士さん向けの研修会でもこの質問をしてみたところ、ご自身の結婚式のときに食べたフランス料理!幸せな気持ちとおいしさが合わさって印象に残っています、となんともほほえましいエピソードを話してくださった先生もおられました。質問の答えからは、食べ物の味だけではなく、そこにまつわる経験が大きく影響していることがうかがえます。

 食べ物をおいしく食べるためには、味を感じる味覚だけでなく、食経験が深く関わります。私たちヒトは、本能的に食べたことがない物や見たことがない物を「嫌い」、食べたことがある物や目にしたことがある食べ物を「好き」と捉えやすいのです。
 乳幼児期の子どもたちは、どうしても食経験が少ないので家庭や保育所・幼稚園で食経験の不足を補う工夫をする必要があります。食べ物を食べる経験だけでなく、栽培や調理など、食そのものに対する興味を持てる経験も食経験を豊かにする手段です。保育者の先生方は、子どもたちがおいしく食べられるように、好きな食べ物が増えるようにと園で様々な工夫をされています。

 先日6歳の娘に「今までに食べた中で一番おいしかったものは?」の質問をしてみました。すると「保育園でつくったきのこカレー」との返事が返ってきました。理由を聞くと、自分たちで作ったから、とのこと。「きのこは苦手だけど、めーっちゃおいしかった!」そうです。どんなカレーを作るかを子どもたちで相談して考え、子どもたち自身が野菜やお米などの食材を買いに行き、子どもたちが野菜を切ったり調理をしたりして作ったそうです。きのこを入れることになるまでには、反対意見が挙がったりして紆余曲折があったよう。「お母さんが作った○○」的な答えが返ってくるかなと淡い期待をしていた身としてはちょっと寂しいのですが、保育園での経験が娘の中で豊かな食経験となっていることがよくわかりました。
 この経験の裏には、保育園の先生方の様々な援助があると想像できます。きのこカレーを作るためには子どもたちが話し合う場を作り意見をまとめたり、買い物に行ったり、園の中で調理できるようにしたり…とこの日につながる日々の保育の積み重ねによって実現したきのこカレーだったんだろうなと思います。保育者を目指す学生たちにはこんな保育ができる保育者になってほしいなと願っています。

藤原辰史(2019)「食べるとはどういうことか 世界の見方が変わる三つの質問」,農山漁村文化協会.

こども心理学部

西村 実穂

西村 実穂
(NISHIMURA Miho)

プロフィール
専門:障害児保育、小児保健
略歴:筑波大学医学専門学群 看護・医療科学類 卒業
筑波大学大学院人間総合科学研究科 修了
東洋大学ライフデザイン学部 助教

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