大学の仕事が忙しくなってからは演奏活動もままならないが、今まで多くの演奏家と共演してきたことは私の宝物である。
ピアノ演奏と一口に言ってもいろいろな演奏スタイルがある。ソロ演奏、1台のピアノを二人で弾く1台4手連弾、2台のピアノを二人で弾く2台4手連弾、声楽や他の楽器などの伴奏、オーケストラと一緒に共演するピアノコンチェルト、弦楽合奏とアンサンブルするピアノ3重奏やピアノ4重奏などの室内楽がある。
ソロでの演奏は、本番までたった一人で楽曲と向き合って孤独な作業をする。楽譜から作曲家の想いを読み取って共感し、自分なりに理解して思い通りの表現が出来るようになるまで練習を積み重ねていく。自分の表現を思う存分出来る。
これが伴奏となると話は違ってくる。主役は相手であり、その演奏者が最大限に表現出来るように支えなくてはならない。話し合いを重ね、相手の要求を理解して仕上げていく。しかし、いざ本番となると打ち合わせと違う表現をされることが度々あり、本番中に瞬時に対応しなくてはならない。特に声楽家はその日の声の調子が悪いと、「いつもより音を2度下げて伴奏して」と本番直前に言ってくることがある。急な要求に冷や汗をかきながら演奏したことも1度や2度ではない。
1台4手連弾は低音部が高音部を支えることが多いが、一心同体となって表現する。2台4手連弾ではお互いが主役であり、主張したり協調したりしながら表現していく。
何と言っても一番気持ちが良いのはピアノコンチェルトである。オーケストラを従えて華やかでダイナミックな演奏表現が出来る。指揮者が主役のピアノとオーケストラの演奏を調整し、一緒に音楽を作り上げる喜びは何物にも替え難い。
しかし今、一番はまっているのは室内楽である。ヴァイオリンやヴィオラ、チェロの奏者らと4,5人で演奏する。指揮者がいないので主従関係も調整役もいない。どのパートも主役になったり脇役になったり、協調したり伴奏するなど様々に変化する。ピアノは他楽器とのバランスを考えてハーモニーを奏でる。まるで人間関係のように、時には譲り、時には主張し合って演奏表現する。
年齢を重ねてきて、やっとこの面白さと楽しさが理解できるようになった気がする。