大きな災害は起きないに越したことはありませんが、誰しもがいつどこで遭遇するかわからないものでもあります。このコラムの執筆に取りかかろうかと考えていた矢先に速報が飛び込んできて、北陸地方で大きな地震があったことを知ることになりました。知人の安否は確認が取れ胸をなでおろしましたが大きな被害も出ており、様子をお聞きした限りでも本当に大変そうでした。私自身は阪神淡路大震災と東日本大震災を経験しています。生活が送れないほどの被害ではなかったものの、当時の大混乱を思い出して落ち着かない気持ちになりました。
そうした自分の体験と無関係ではないと思いますが、心の支援に関わる学問である臨床心理学を専門とするようになってからも、災害時の支援やストレスについては気になるテーマであり続けてきました。東日本大震災のときにはすでに心理職として働いており、カウンセリング中に被災することになりました。クライエント(相談にいらっしゃる方)にはダウンコートを頭からかぶってテーブルの下に入ってもらい、枠がゆがむとドアが開かなくなるという阪神淡路大震災時の経験からとっさにカウンセリングルームのドアと窓を開けたのを覚えています。揺れが収まったのを見計らいクライエントと一緒に建物の外に避難しましたが、そこでも動揺している人が少なからずおり、心の支援として何ができるのか手探りの中で私自身の不安も大きく、甚だ心もとない状態でした。
それからしばらくして、災害等の危機的出来事に見舞われストレスを抱えた人に対し、安全な形で心理社会的支援を提供する方法としてPFA(心理的応急処置)というものがあることを知りました。PFAはいくつかの団体によって開発されていますが、私はWHO(世界保健機関)が中心となって開発した「WHO版PFA」と、セーブ・ザ・チルドレンによってWHO版PFAをもとに開発された「子どものためのPFA」を学びました。どちらもトレーナーとしてのトレーニングも受け、今では各地で研修を行ったりもしています。PFAは心理的と名前がついていますが、心に関わる専門職を主な対象としているのではなく、支援に関わるどのような人でも身につけられるように構成されています。私に広く災害支援を語れるほどの知識や力量はないですが、PFAをお伝えしていくことで少しでも多くの人が危機的な状況にある人の支援方法を知ることにつながれば社会への貢献になるのではないかと思って取り組んでいます。このコラムを読んだ方の中にも興味を持ってくださる方がいらっしゃれば嬉しく思います。
最後に、今回の地震の影響から日常を取り戻すまでに時間を要するかもしれませんが、お住まいの方はもちろん、災害派遣や支援で現地に入られている方も無事にお過ごしになられることを祈っております。