今回は,私の読書の原点が今の私の研究の1つに繋がっていることを紹介します。
元々,私は読書がとても苦手で,恥ずかしい話ですが,大学生になるまで1度も読了をしたことがありませんでした。初めて読了したのは大学1年生の時で,その時に読んだ作品が花村萬月先生の『二進法の犬』という作品でした。特に印象に残っているのは,乾十郎の考え方となっている二進法的思考でした。
二進法的思考とは,白か黒かに明確に区分する考え方です。今日では完璧主義,白黒思考,二分法的思考,全か無か思考などと呼ばれており,否定的な見方として知られています。実際,精神科医のアーロン・ベック氏は「歪んだ思考(歪んだ認知)」の1つとしてこれを紹介しています。
そんな二進法的思考について,世間では歪んだ思考といわれています。ですが,必ずしもそうとは言えないのではないか?というのが私の今の研究の原点になっています。その最たる理由がプログラミング教育の必修化です。
小学校ではプログラミング教育が必修化となりました。プログラミング教育では,論理的に物事を考えるためのプログラミング的思考を身に付けることが意図されており,解決手順を考えるための能力を培うことが目的とされています。
プログラミング教育の題材の1つとして使われるScratchを実際に操作してみると,目標を達成する上で「コマンドAを入れるかどうか」という思考を身につけることができます。つまり,「Aかnot Aか」という二進法的思考が隠れているように見えます。
プログラミング教育を必修化することは,二進法的思考についても触れることになりますし,二進法的思考を身に付けることを意図している可能性も否定できません。私の仮説は,二進法的思考が認知の歪みではなく,実は本質的な思考の1つになるのではないかと考えています。これを論証することが私の研究の1つに繋がっています。
柳川範之先生の著書「東大教授が教える知的に考える練習」でも述べているように,常に間口を開けておいて色々なものを組み合わせてみることで,新たに見えてくる世界がきっとあると思います。今回の事例は『二進法の犬』とプログラミング教育の組み合わせでした。皆さんの何かしらのヒントに少しでも貢献できたら嬉しいです。