私は、社会科教育学と教師教育学を専門としている。これまで、小学校において授業実践が素晴らしいと言われる教師たちにインタビューを試み、その授業実践の背景にはいったい何があるのか、どんな努力を積み重ねているのかを研究してきた。そのインタビューの内容を精査する中で、ある共通点を見いだすことができる。それは、真摯に子どもに向き合い、子どもの声を聴ける教師だということである。その子どもの声を聴けるようになるためにいったいどんな努力やユニークな取り組みをしているのか、このことについて考察することは、教員養成に携わる者にとっても示唆が与えられる。ここでは、その教師の努力について2点について紹介したい。
まず1点目は、自身の授業実践をICレコーダーで録音してリフレクションするという努力を重ねている。授業での子どもの発言に対する自身の応答関係を聴くことで、子どもの言いたいことを捻じ曲げて解釈していないかどうか振り返るとともに、子どもの発言に正対した働きかけを行っているかどうかをチェックしている。また、子どもの声を聴く視点が豊かにならなければ、振り返って聴いても意味がないと考え、ラジオの人生相談を聴くことを日常の生活に取り入れた教師の事例もある。つまり、話し手の思いの深いところ、または、避けているところ、そして話し手に気付きを促す働きかけなどを参考にするとのことであった。そのことによって、改めて他者の話を聴くことの深さに思いをはせ、授業実践に生かしたのである。
2点目として、授業記録をおこす営みである。つまり自身の授業実践を振り返る際に、授業記録をとって、徹底して子ども理解に努めている。そのことによって、教師の働きかけの是非だけでなく、その背景にある自身の教育観(多くは隠れたカリキュラム)を明確にして、問い返しながら自己の成長につなげているのである。授業における子どもと教師の言動の背景から、その授業内における関係性や、発言の真意を捉え直すだけでなく、一人の子どもの見方や考え方、感じ方、ときにはその子どもの育ちをしっかりとみることを徹底している。このことは、授業において教師主導になることを戒め、子どもが創る授業を実践する資質・能力につながるであろう。
以上の点については、教師の授業力向上の力量形成に関する一事例にすぎない。現在、我が国において子どもの「主体的・対話的で深い学び」を創造する授業実践が求められる中にあって、日々子どもの学びへの理解を中心に据えて授業実践を積み重ねている教師たちに敬意を表したい。このような学校現場へのフィールドワークの機会を拡大していくことも、将来、教師を目指している学生たちにとって、将来自身が教壇に立つイメージをもてるという点で意義深いことだと考える。
教師を志望する学生が大学在学中に、教師になることの夢や希望がもてるよう、そのために必要な力量を自ら求めて形成しようとする意欲が育まれるよう、力を尽くしていきたいと考える今日この頃である。