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天使の輪っか

投稿日:2023年07月27日

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 子どもはときどき、大人がはっとするようなことを言います。私がまだ新任の頃、幼稚園で4歳児クラスの担任をしていたときにこんなことがありました。

 その日、私は何人かの子どもたちとジャングルジムに登って遊んでいました。私たちは、「気持ちがいいねぇ~!みんな何して遊んでいるかな~?」などと言いながら、ジャングルジムのてっぺんから園庭の様子を見渡していました。
 すると、同じクラスのA君が、友だちと揉めているのが見えました。どうやら砂場の道具を巡って言い合いをしているようです。A君は不器用なところがあって、「貸して」と言わずにおもちゃを取ってしまったり、仲良くなりたくてちょっかいを出して嫌がられてしまったりすることがよくありました。私は、A君の側に他の先生がいることを確認した上で、その様子を上から眺めていました。傍らには、同じく子どもたちがその様子を一緒に見ています。私が「あらあら…まただねぇ。」と困ったように呟くと、隣にいた4歳のMちゃんがこう言いました。
 「人間はね、生まれたときはみんな天使の輪っかをつけているの。でもね、嫌なこととか悲しいことがあると、その輪っかがパリンって割れちゃうの。でもね、誰かから優しくされたり助けてもらったりすると、その輪っかは元に戻るんだよ!A君は今、天使の輪っかが割れちゃってるのかもしれない。」
 私ははっとしました。そのとき私はA君のことを「まただ…困ったな」と思って見ていました。「子どもを肯定的にみる」「子どもの心に寄り添う」教科書に書いてあるような子どもの見方は重々理解しているつもりでした。でも、実際には目の前のA君の心を本当に理解してはいなかったのだと思います。毎日のように友だちと揉めてしまうA君を見て、どうしたらみんなと折り合いをつけて遊べるようになるかということばかり考えて、「天使の輪っか」が、今割れてしまっているのかもしれないということに気付くことができていなかったのです。今思えば、A君は「そうせざるを得ない」状況に追い込まれて、きっと苦しかったに違いありません。

 それから、子どもが一見大人から見て困った行動をするとき、私はいつもMちゃんの言葉を思い出しました。「今この子どもは天使の輪っかが割れてしまっているのかもしれない」と。そして、その行動を修正、改善しようとするよりも、まずはその子どもを温かな心で受け止めることを優先し、「天使の輪っか」が修復するのを待ちました。温かく受容されて心が満たされると、歯車はうまく回りはじめました。Mちゃんの言うとおり、「天使の輪っか」は人の温かさで元に戻るようでした。

 ちなみに、Mちゃんの「天使の輪っか」発言は一体どこから来たのか、それは誰にもわかりませんでした。Mちゃんのお母さんにも聞いてみましたが、これまで家でそんな話をしたことはなかったそうです。(宗教的な考えなどでもないのです)
 子どもの感性、それは本当に不思議で、大人も驚くような偉大な力を持っています。Mちゃん、あのときジャングルジムの上で大切なことを教えてくれて本当にありがとう。

こども心理学部

岩井 真澄

岩井 真澄
(IWAI Masumi)

プロフィール
専門:幼児教育
略歴:国立音楽大学音楽教育学科幼児教育専攻を卒業後、都内の私立幼稚園にて担任、主任として勤務。
その後東京家政大学大学院人間生活学総合研究科児童学児童教育学専攻修士課程を修了。
立教女学院短期大学非常勤講師、東京未来大学特任講師、大妻女子大学助教を経て現職。

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