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アフターコロナのマスクについて思うこと

投稿日:2023年03月31日

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 2023年3月13日から,マスクの着用は個人の主体的な判断にゆだねられています(参考:厚生労働省,『マスクの着用について』)。みなさんは、マスクをつけ続けていますか?それとも、外していますか?

 複数の調査結果をみると、今後もマスク着用の意向が高く、実際に、マスクを外している人をほとんど見かけません。“主体的”なマスク生活が続く中、「マスク依存の若者たち『“外さなくていい”は、優しさじゃない』と考える専門家の懸念」という記事(TBS NEWS DIG,2023年3月26日配信)を読む機会がありました。マスクで顔を覆い隠さず、自分の顔に向きあおう、ありのままの自分を受け入れることは、色々な人がいるという多様性を認めることにも通じるという観点です。

 「なるほど」、と思いました。確かに、マスクで覆うのは顔ではなく、「コンプレックス」なのかもしれません。ですが、容姿や人の目に敏感で、最も多感な時期をマスクで生活してきた若い世代にとって、「だから勇気をもって外そう」というのは、なかなかハードルが高いように思えます。

 コロナ禍で出会った人々にとっては、マスク顔が「ふつう」です。特に、初の緊急事態宣言が出された2020年4月入学の中学生や高校生、他にも短期間の所属や関わりである人々にとっては、素顔を知らないまま出会いと別れを経験した人たちがいるのではないでしょうか。そんなコロナ禍において、マスクは顔にとってのパンツであり、素顔をみせることはパンツを履いていないことと同じくらい恥ずかしいという「顔パンツ」という強烈な言葉が生まれています。初めて知ったときには、「そんなに恥ずかしいのか!」と面食らったものです。

 10年ほど前には「だてマスク」が現れ、衛生上の理由ではなく、常にマスクをつけている人々が話題になりました。新型コロナウイルスが流行する以前のマスク着用においては、他者に見られる不安の高い人ほどマスク着用頻度が高かったことが明らかになっています(宮崎他,2011)。また、マスク着用の有無を比較した実験(笠置,2017;2018)によって、対人不安の高い人がマスクをしてコミュニケーションをすると、アイコンタクトが増え、会話をうまくコントロールできるようになること、他者に好ましい印象を与えられることから、円滑なコミュニケーションが可能になることが示唆されています。一方、対人不安の低い人は、素顔の方がコミュニケーションが進み、魅力も高く評価されたため、マスクを外したほうがコミュニケーションは豊かになるのでしょう。

 マスクがコミュニケーションに与える影響は、その人がどのような対人傾向を持っているのかに左右されるようです。マスクは顔の下半分を覆ってくれるため、他者に注視される範囲が狭まります。そのため、他者の視線や他者と関わる場面で不安や緊張を感じやすい人にとっては、マスクをつけることで、人と関わる際の不安が軽くなると考えられています。

 いろいろ考えてみると、マスクの影響をどう捉えるのか、マスクに(感染症対策以外の)何を期待するのかによって、マスクに対する見方は変わるなぁと感じます。コンプレックスに向き合い自己(他者)を受容することを目指すのか、他者とのより良いコミュニケーションや人間関係を築くことを目指すのか。個人がどちらを重視するのかは自由であり、もっと別の目的もあるでしょう。人の視線や人と関わる場面が苦手な人にとって、マスクはコミュニケーションのお守りになりそうですが、一方で、マスクは感情を伝えづらくする、わかりづらくするというリスクを負っています。コミュニケーションが豊かになるのであればつけても良いのではと思う反面、素顔を見て話したい人がいることも確かです。本来の素顔で他者とコミュニケーションができるよう、少しずつ慣れていくことも大切かもしれません。みなさんはどう思いますか?

 マスクの着用は「個人の主体的判断」であり、つけるも外すも人それぞれです。マスクをつけていようとなかろうと、伝えようとする努力と、理解しようとする努力、そして互いの認識が合っているのかを確認し、擦り合わせる努力。誰もがコミュニケーションを楽しみ、わかりあえるような関わりを、重ねていけたらと思います。

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文 献
笠置 遊 (2017). マスクの着用は対人不安者のコミュニケーションを促すか 日本心理学会第81回大会論文集, 73.
笠置 遊 (2018). マスクの着用が対人不安者の印象に及ぼす影響 感情心理学研究, 26 (supplement) , os13.
厚生労働省 (2023). マスクの着用についてhttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kansentaisaku_00001.html (2023年3月26日アクセス)
宮崎由樹・鎌谷美希・河原純一郎 (2021). 社交不安・特性不安・感染脆弱意識が衛生マスク着用頻度に及ぼす影響 心理学研究, 92, 339-349.
TBS NEWS DIG (2023). マスク依存の若者たち「“外さなくていい”は、優しさじゃない」と考える専門家の懸念  https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/396708 (2023年3月26日アクセス)

こども心理学部

日向野 智子

日向野 智子
(HYUGANO Tomoko)

プロフィール
専門:対人・社会心理学
略歴:昭和女子大学大学院生活機構研究科後期博士課程修了
東洋大学21世紀ヒューマン・インタラクション・リサーチ・センターPD(2006年)
2007年~2011年、立正大学心理学部特任講師(2007年~2011年)
2013年4月東京未来大学こども心理学部専任講講師
2017年4月東京未来大学こども心理学部准教授

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