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ストレスに向き合うための心理的・感情的安全性:ポリヴェーガル理論の視点から

投稿日:2024年10月17日

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 ストレスと心理的安全性や感情的安全性は、個人の心理的健康を維持するために重要な役割を果たします。心理的安全性とは、主に組織や集団の中での概念で、自分の意見や考えを表現しても否定的な結果を恐れる必要がない状態を指します。一方、感情的安全性は、より個人的な関係性において、自分の感情を自由に表現でき、受け入れられると感じられる状態を意味します。
 両者は相互に影響し合い、個人の全体的な安全感を形成します。この総合的な安全感は、乳幼児期の親との安全な関係性から形作られ、発達していきます。愛着理論によれば、安定した愛着関係は他者への信頼や自己肯定感を育み、心理的・感情的な安全性の基盤となります。
 安定した愛着関係がこの心理的・感情的安全性を支え、心の落ち着きや対人関係での安定をもたらし、ストレスに対する耐性を高める要因となります。最近では、「ポリヴェーガル理論」と「耐性の窓」という考え方が、ストレスと心理的・感情的安全性の理解を深める考え方として注目されています​。

 愛着と心理的・感情的安全性
 心理的・感情的安全性の基盤において重要なのが愛着です。これは、乳幼児期の親との安全な関係性から形作られて発達していきます。そして、愛着理論では、安定した愛着関係は他者への信頼や自己肯定感を育くみ、心理的・感情的な安全性を確保するとされています。この安心感の基盤により、個人は自己表現がしやすくなり、感情や行動を抑えることなく社会的に関わることが可能となります。愛着が安定していることで、自分が受け入れられているという心理的・感情的安全性が形成され、心が落ち着いた状態である「耐性の窓」に留まることができるのです​。

耐性の窓とは?
 耐性の窓(Window of Tolerance:WOT)は、私たちが日常のストレスや感情の高まり(覚醒)を上手に処理できる範囲を示します。この概念は心理学者ダニエル・シーゲルによって提唱され、個人が落ち着いて物事を判断し、感情のコントロールができる範囲のことを指します。しかし、過度なストレスやトラウマにより、この窓を超えると「過覚醒」や「低覚醒」の状態に陥ります。

過覚醒は、脅威を感じた際に体が自動的に闘争や逃走の反応を起こす状態で、不安や緊張が増します。
 例:締め切りが迫った仕事で、心拍数が上がり、落ち着きがなくなる等。

低覚醒は、無力感が強まるフリーズ状態で、無気力や社会的な関わりが難しくなる状態です。
 例:重要なプレゼンテーションの直前に、頭が真っ白になり動けなくなる等。

ポリヴェーガル理論と耐性の窓の関係
 ポリヴェーガル理論は、神経科学者スティーブン・ポージェス博士によって提唱され、私たちの神経系がどのように安全感や脅威に反応するかを説明します。ポリヴェーガル理論では、自律神経系の3つの状態、すなわち「社会的関与システム(腹側迷走神経系)」「闘争・逃走反応(交感神経)」「フリーズ・シャットダウン反応(背側迷走神経系)」が挙げられます。社会的関与システムが活性化されているとき、私たちは安全でリラックスした状態にあり、他者との関係を積極的に築き、耐性の窓内で安定して機能できるのです​。
 一方で、脅威を感じると、私たちの自律神経系は闘争・逃走反応(交感神経)やフリーズ反応(背側迷走神経系)に移行し、耐性の窓を超えて過覚醒や低覚醒状態に至ります。過覚醒状態では不安や緊張が高まり、低覚醒状態では、周りと繋がってない感覚や身体が動けない感覚が強まります。これらの状態では、心理的・感情的安全性が低下し、自己表現や社会とのつながりが難しくなることが多いのです​。

耐性の窓を広げる方法
 では、心理的・感情的安全性を確保し、耐性の窓内に留まって、心健やかに過ごせるようになるにはどうすればいいでしょうか。その為には、社会的繋がりを持ち、信頼できる人間関係を作ることが重要です。そうすることで、自己表現や感情を調整することが容易になり、耐性の窓を広げることができるようになります。日常生活で、深呼吸や瞑想、友人との対話など、神経系を落ち着かせる活動を取り入れることは、耐性の窓を広げるのに役立ちます。このように、信頼できる人との交流や社会的つながりを強めることは、ストレスに対する適応力を高め、心理的・感情的安全性を強化することとなります。
 心理的・感情的安全性のある環境や安定した愛着関係を経験することで、個人は自信を持って自己を表現でき、困難な状況でも冷静に対処する力が養われます。日常生活でも、これらを意識することで、ストレスに強く、心の安定が保たれるようになります。

参考文献

  • Boeder, E. (2024). Emotional safety: What it is and why it’s important. Psychology Today.
  • Kim, J. (2018). Nurturing secure attachment: Building healthy relationships. Psychology Today.
  • Porges, S. W. (2011). The Polyvagal Theory: Neurophysiological foundations of emotions, attachment, communication, and self-regulation. Norton.
  • Siegel, D. J. (1999). The Developing Mind: How Relationships and the Brain Interact to Shape Who We Are. Guilford Press.

こども心理学部

藤本 昌樹

藤本 昌樹
(FUJIMOTO Masaki)

プロフィール
専門:発達心理学、臨床心理学、発達精神病理学、トラウマ・ケア
略歴:東京学芸大学大学院教育学研究科心理学講座 修了
東京医科歯科大学大学院 保健衛生学研究科博士後期課程 修了
元静岡福祉大学准教授、元桐生大学准教授
臨床心理士、社会福祉士、精神保健福祉士

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