お隣の国、中国の憲法をみたことはありますか?中国の憲法は1954年に制定され、75年、78年、82年に大きな改定がなされましたが、現行の憲法は、82年版に5度の修正を加えたものになります。
中国の憲法では、第33条で国籍を有する者を「公民」と定めて法の下の平等を明記し、公民には言論、出版、集会、結社、行進及び示威の自由(第35条)、宗教信仰の自由(第36条)など広範な自由を認め、不当な拘束などで自由を奪われることなく(第37条)、いかなる国家機関や国家公務員に対して批判及び提案を行う権利も認めています(第41条)。このような自由は、日本国憲法でも馴染みがありますね。
その一方で、第1条では「人民民主主義独裁の社会主義国家」であると明記し、中国人民による独裁によって社会主義国家を建設していくことを宣言しています。また第3条で「国家機構は民主集中制を実行する」と規定して《権力分立》を否定し、民主選挙によって選任された議会である全国人民代表大会が、国家の行政機関、司法機関に対して責任を負い監督する(第1条)とされ、2018年の修正では監察機関までもが全国人民代表大会の監督下に置かれ、全国人民代表大会に権力が集中する構造になっています。「共産党独裁」を明記する条文があるわけではなく、「共産党」という名称も2018年の修正で第1条に「中国共産党の指導は、中国の特色ある社会主義のもっとも本質的な特徴である」という一文が追加されるまでは、「序言」にしかみられませんでした。とはいうものの、全国人民代表大会の議席を占めるのは共産党と、共産党の指導を受ける8つの民主政党であり、事実上、共産党の独裁になっているというわけです。「民主主義国」であるとはいえ、権力を分散させて互いに抑制させる日本の三権分立とは真逆のものですね。
さらに、中国の憲法は、いかなる組織又は個人にも、社会主義制度を破壊することを禁止し、独裁的な社会主義国家の建設を阻むことを許さず、第28条で、国家は、国家に対する反逆を鎮圧し、社会治安への危害、社会主義経済の破壊、その他の犯罪活動には制裁を加えるとしています。また、2015年に制定された国家安全法第15条で、人民民主主義独裁を転覆または転覆を扇動するあらゆる活動を違法行為として法によって処罰することが決められ、《政権交代》を求めるあらゆる活動が違法行為とされました。冒頭に挙げた「公民の自由」も、日本の「国民の自由」と比べれば、大幅に制限されたものにならざるをえないようです。
日本では、2024年4月に行われた衆議院東京15区の補欠選挙で、他政党の立候補者の演説の場に乗り込み、演説を聞こえにくくするほどの大音量で一方的に質問を投げかけるなど、選挙演説を妨害する行為を行った政党の代表者と立候補者ら3名が逮捕されるという事件がありました。本人たちは表現の自由の範囲内であると主張していましたが、他者の言論を封殺するほどの執拗な行為は、言論の自由を脅かすものです。表現の自由を濫用して選挙を妨害する行為が横行し、規制によって選挙演説時に行動制限が課されることになれば、われわれ国民の自由が一つ奪われることになります。民主主義だからといって、常に自由が保障されるとは限らないということを忘れないようにしたいですね。
※ 中国の現行憲法(1982年公布 1988年, 93年, 99年, 2004年, 18年修正)は、中华人民共和国中央人民政府webサイト「中华人民共和国宪法」(https://www.gov.cn/guoqing/2018-03/22/content_5276318.htm)などで閲覧することができます。