幼い頃、リカちゃん人形の髪を結んだり、お洋服を着せ替えたりしたことはあるでしょうか。あるいはお世話人形のメルちゃんやぽぽちゃんを抱っこしたり、お風呂に入れたり、ミルクを飲ませてあげたりした人もいるかもしれません。お人形といえば、女児向玩具と考える人も多いかと思います。しかし、女の子だけでなく男の子(特に低年齢児)も、人形やぬいぐるみをつかったお世話遊びを楽しみますし、人形遊びは他者の心を理解し思いやる力や、言葉の発達を促すとされています。ただ、それでも「男の子なのにお人形遊びが好きで…」と心配される保護者もいらっしゃいます。実際に、明治期以降の玩具論のなかでも、人形遊びを母性本能と結びつけ、将来の母親役割の準備機能として価値づけた言説は多くみられます。子どもの文化は長らく男の子向け・女の子向けといった二元論にとらわれてきたようです。
しかし、おもちゃの世界も時代と無縁ではありません。時代を反映しつつ、多様化してきています。2023年にアメリカのマテル社からダウン症のバービー人形が発売されましたが、実はバービーはジェンダー平等や多様性を表現し続けているのです。現在発売されているバービーは、肌の色は35色、モデル体型のバービーだけでなく、背の低いバービーや、ちょっとふっくらとしたバービーもいます。車椅子のバービーや白斑、脱毛症のバービーなど、実に多種多様。職業も消防士、科学者、宇宙飛行士、大統領候補などにまで広がっています。お気に入りのバービーと出会い、人形遊びを通して多様性を学び、自分の将来像を夢見ることができるようにという思いが込められています。日本でも、男児向けお世話人形のホルンくんがバンダイから2019年に発売され話題になりました。
さて、人形遊びもそうですが、おもちゃは子どもたちの想像力を刺激し、創意工夫を引き出して、遊びを広げてくれます。子どもたちのお気に入りのおもちゃをみると、シンプルで想像の余地があるものが多いように思います。たとえば小さなリングをつなげて遊ぶカラフルな「チェーンリング」。つなげる楽しさや達成感はもちろんですが、つなげかたによってネックレスになったり、お花になったり、ヘビになったり、さまざまな食材に見立てておままごとに使ったりと、子どもたちの自由で柔軟な発想からたくさんの遊び方が生まれてきます。また、モノを落とすことを楽しむ「クーゲルバーン」(図1)は、上部の穴から玉を落とすシンプルなおもちゃですが、落下するという現象や玉が鉄琴の階段を転がるときに生み出す音を楽しみ、仕組みを探求するかのように、夢中になって繰り返す姿がみられます。一つの玉が落ちきる前に連続で玉を落としてみたり、落とす間隔を変えてみたり、途中で止めてみたり…。大人にはずっと同じことを繰り返しているように見えますが、子どものなかでは仮説・検証を積み重ね、大人には見えない世界をみているのかもしれません。
ただ、そんな子どもとおもちゃの関わりが、周りの大人の関わりかたで狭められてしまうケースも見られます。同じおもちゃでばかり遊ぶのはよくないと、別のおもちゃをすすめたり、あるいは、こういうふうに遊びなさいと使いかたを決めたり、男の子向き、女の子向きと限定してしまうのもそうですね。保育の中でも「ここではパズルね、ブロックはあっち」「おままごとコーナーからおもちゃを持ち出したらダメ」などなど、使い方や使う場所を定めている例もみかけます。子どもの遊びは大人からすると、創造と破壊が繰り返され、ときに混沌としています。しかし、そこには子どもなりの思いや理由があり、混沌の中から新たな発見や遊びも生まれてくるのだと思います。最近、ネガティブケイパビリティ(答えのない事態に耐える力)という言葉をよく耳にします。大人は性急に答えを出したがったり、決めつけたりしがちですが、子どもや子どもの遊びと向き合う時、わからないことをそのまま受け止める、この力があるともっと自然体でおおらかに、子どもの遊びに寄り添っていけるように思います。