「ハワイ」といったら、どのようなことを思い浮かべるでしょうか。
バカンス、ハネムーン、ショッピング、フラダンス、アロハなど、日本人にとってリゾート地としてのイメージが強いのではないでしょうか。
私のハワイに対するイメージも、多文化教育を視点として日系移民学習を学び研究するまで同様なものでした。趣味である海外旅行で行き先を決める際、リゾート地としてのハワイへ行くことは避けているぐらいでした。しかし、中学校・高等学校の教員を続けながら、大学院博士後期課程に通い研究活動をする中で、私のハワイへ対するイメージが180°変わりました。私の指導教員であった森茂岳雄先生(中央大学名誉教授)の授業のTA(ティーチング・アシスタント)として、大学生を引率してハワイのハワイ島へ訪問する機会がありました。
ハワイ島は、ハワイ諸島で最も大きな島で、「ビッグアイランド」とも呼ばれています。火山活動が続くキラウエアや日本の国立天文台が運営するすばる展望鏡があるマウナケア、綺麗に透き通った海など、自然豊かな島です。ハワイ島の政治と産業の中心地であり、ハワイ州でホノルルに次ぐ第2の都市であるヒロ。ヒロのダウンタウンには、日本人や日系人の方の名前が用いられているビルやBento（弁当）店、日本の雑貨を売っている店、日本料理店、日系の方々が営むスーパーマーケットなどが点在しています。特に、1912年に日本人移民であったハタ氏によって建造された「ハタ・ビルディング」はヒロのダウンタウンのシンボルマークともいえるビルです。つまり、ヒロは日系人がつくった町でもあるのです。
ハワイへ渡った日本人（日系移民）の歴史は、1868年（明治元年）に遡ります。サトウキビ・プランテーションの労働力として集められた日本人約150名が移民としてハワイへ渡りました。彼らが移民した年が「明治」の「元年」だったことから、「元年者」と呼ばれます。この頃、幕末から明治へ移行し混乱した時代だったこともあり、明治政府は、彼らを正式な移民とは認めていませんでした。しかし、1885年（明治18年）に日本からハワイへの集団移民が開始され、これ以降の移民の人々は明治政府とハワイ王朝が締結した「日布渡航条約」に基づいた公式な移民だったことから、「官約移民」と呼ばれています。このように、日本からハワイへ渡った移民の歴史には、19世紀にサトウキビのプランテーションの労働者として海を渡ったことをきっかけとし、日系人の社会がハワイに形成されてきた背景があります。そして、今もハワイには多くの日系人や日本人が暮らしています。
冒頭の大学生を引率し、ハワイ島を訪問した話に戻ると、私が実際に目にしたハワイは、リゾート地としてのハワイではなく、まさに、豊かな自然と共に暮らす日系人や日本人の方々の姿だったのです。出会った日系２世や３世の方々は、日本からハワイへ移民した時の体験談やこれまでのライフヒストリーを語ってくださいました。本来ならば、大学生の授業をアシストするのが私の立場だったのかもしれませんが、学生よりも熱心に日系人の方々と話す自分がいました。帰国後は、中学生の社会科の授業を中心に事ある毎に、ハワイで出会った日系人や日本人の方々のことについて語り、日系移民学習に関する研究も取り組み始めました。大学教員になった今でも、日系移民学習に関する研究は、研究の一部にもなっています。
グローバル化の進展によって、国境を超えて移動する人々が増加しています。日本においても、様々な国や地域、外国にルーツをもつ人々が、地域社会の構成員として暮らしています。昨今では、少子高齢化と人口減少に伴う人手不足の解消や解決のために、外国人労働者の受け入れが進んでいます。つまり、私たちの祖先が150年以上前にハワイに渡り、労働者として働き、異国の地で日本人移民や日系人として、日本人としてのアイデンティティを大切にしながら過ごしてきたことと、今の日本の状況とリンクするところが多々あるのではないでしょうか。
「JICA横浜 海外移住資料館（神奈川県）」「ハワイ移民資料館（広島県）」「海外移住と文化の交流センター（兵庫県）」などをはじめとし、国内にも日本人移民について学ぶことができる資料館があります。ぜひ一度、足を運んでみてください。
