このページの修正はsingle.phpで作業します

カナダに渡った日本人移民の歴史から「社会正義」について学ぶ

投稿日:2025年12月18日

投稿内容に関連するキーワード

 「社会正義(social justice)」という言葉を聞いたことがありますか?

 簡単に説明すれば、「社会正義」とは、すべての人々が公正に扱われ、安心して自分らしく生きられる社会を築くことです。人はそれぞれ異なるバックグラウンドやアイデンティティを持っており多様です。その違いが教育や仕事、生活の機会に影響することがあります。「社会正義」は、このような不公平や不公正を見過ごすのではなく、違いを認め合いながら、誰もが尊重される社会の仕組みをつくることを重視しています。
 「社会正義」を理解するうえで、過去に海を渡った日本人や日系人の事象や史実を知ることはとても重要です。そこで本稿では、カナダに渡った日本人移民の歩みを通して、「社会正義」について考えてみたいと思います。

 19世紀末から20世紀初頭、多くの日本人がカナダへ渡りました。主に漁業、農業、製材業などに従事するために、新天地であるカナダでの生活に希望を抱き、日本から移住しました。言葉も文化も違う土地で、日本人や日系人は懸命に働き、カナダ社会に根を張っていきました。しかし、当時のカナダでは、移民への偏見や差別は根強く、土地の所有を制限されたり、参政権が認められなかったりなど、日本人・日系人は常に不平等や不正義な立場に置かれていました。それでも彼らは、地域社会に貢献しながら、静かに日本人としての誇りを持って生活を送っていました。

 1941年、日本が真珠湾を奇襲攻撃したことで、カナダ政府は「敵性外国人」として日系カナダ人を強制的に収容所へ送る政策をしました。大勢の日本人・日系人が、財産を没収され、家族と引き離されました。そして、男性は道路建設現場での重労働、女性や子ども達は山奥の収容所での過酷な生活を強いられました(写真1)。日系カナダ人の多くはカナダ生まれの市民でありながら、国から「日本人を祖先にもつ人」、「信用できない存在」とみなされたのです。

 日本人・日系人の強制収容は、「社会正義」が失われた瞬間でもあります。国籍や民族、出身地によって不当に扱われることは、まさに「特権」の裏返しです。白人のカナダ人には当たり前に認められていた権利が、日系人には与えられなかった出来事です。

 戦後、日系人たちは収容所から解放されましたが、失ったものはあまりにも大きく、長い間、沈黙を強いられてきました。しかし1970年代から、カナダの日系人社会が第二次世界大戦中の経験と歴史に向き合い、戦時補償運動が始まります。そして1988年、カナダ政府は公式に謝罪し、補償金を支払うことを決定しました(リドレス合意)。
この出来事は、単なる歴史の一ページではありません。差別や偏見に立ち向かい、声を上げることで社会を変えることができることを証明した、希望の証ということができます。

 「社会正義」を考えるとき、重要なのが「特権」という考え方です。「特権」とは、ある集団に属していることで、無意識の内に得られる優位性のことです。例えば、国籍、民族、性別、障害の有無、経済状況などによって、社会の中で多数派(マジョリティ)にとって「当たり前」とされていることが、実は社会的に少数派(マイノリティ)にとって困難であることがあります。マジョリティである特権を持つ人は、その優位性に気づかないことが大半です。
 また、「無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)」にも注意が必要です。これは、自分では気づかない内に、ある人や集団に対して偏った見方をしてしまうことです。例えば、「男の子だからスポーツが得意」「外国人だから日本語が話せない」等の思い込みが、相手の可能性を狭めてしまったり、傷つけることがあります。
 「社会正義」を問い直すとは、自分の立場や視点だけでなく、他者の経験に目を向け、他者の声を聞くことです。特権やアンコンシャス・バイアスに気づき、より多くの人が安心して共に暮らせる社会を築くためにも、私たち一人ひとりができることを考え行動に移していくことが大切です。

 過去に海を渡った日本人・日系人の物語は、遠い世界の話ではありません。異国の地での苦悩と社会正義の実現にむけた行動は、今の私達の社会にもつながっています。誰かが不当な扱いを受けている時には「それはおかしい」と声を上げる勇気をもつこと、それは「社会正義」にむけて出来る一歩です。

 「社会正義」とは、誰もが安心して自分らしく生きられる社会を構築することです。そのためには、私たち自身が特権や偏見に気づき、他者の視点に目を向けることが重要です。過去に海を渡った日本人・日系人について学ぶことは、未来の社会をより公平・公正で、誰もが安心して思いやりのある平和なものにしていく力を育むことであると信じています。

*カナダに渡った日本人移民について、より深めたい方は「日系文化センター・博物館:Nikkei National Museum & Cultural Centre」(https://centre.nikkeiplace.org/)がお薦めです。

モチベーション行動科学部

中澤 純一

中澤 純一
(NAKAZAWA Junichi)

プロフィール
専門:教育学、教科教育学
略歴:常葉学園大学 教育学部 生涯学習学科 卒業
静岡大学大学院教育学研究科 社会科教育専攻 社会科教育学専修 修了
中央大学大学院文学研究科博士後期課程教育学専攻 修了
学校法人興誠学園 浜松学院中学校・高等学校 教諭 を経て現職

PageTop