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地図を描き,立ち位置を知る

投稿日:2025年07月10日

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 今年度新たに私のゼミに参加している学生さん達の中には,卒業研究のテーマとして「学習に対するモチベーションに関心がある」という方が複数います。例年では,「思考バイアスに関心がある」,「ネガティブなことばかり思い出す状況に陥っている人への適切な声かけはどのようなものか」,「論文をスムーズに読めるよう指導するには?」など,関心のあるテーマがバラバラなので,これは非常に珍しいことです。
 しかし,それぞれの関心についてもう少し詳しく聞いてみると,実は気になっている現象は違うことが明らかになってきました。

 Aさん:幼少期の親の関わり方によって,子どもの知りたい・学びたいという気持ちに差が出てくるのか?
 Bさん:自分は受験勉強にはあまり熱心に取り組まなかったのだけれども,今,大学では授業で学んだことに関連する図書を読んだり,いろいろな課外学習に参加したりしている。これは,大学の学びは,取りたい資格やなりたい自己に直接関係していて,学ぶ価値があると感じられるからではないか?
 Cさん:畳の部屋で学習すると,学習に対するやる気が高まるのではないか?

 それぞれの関心は,「学習に対するモチベーション」というテーマの中で,どのように異なり,また,どのように関係し合っているのでしょうか。
 この点について考えるために,ゼミの皆で「学習に対するモチベーション」について書かれた図書やレビュー論文(特定のテーマについての先行研究を広く検討してまとめている論文)を読んでみました。

 すると,いくつかのことがわかってきました。
 たとえば,「学習に対するモチベーション」というテーマでイメージされるものの多様性は,どれくらい安定的なものかという3つの水準を想定することで説明できます(鹿毛,2013)。3人が関心のある「モチベーション」は,この水準が違います。鹿毛(2013)の想定した3水準に分けると,Aさんは特性レベル(一般的な傾向性。「○○さんはモチベーションが高い」といった個人のパーソナリティの一部),Bさんは領域レベル(特定の分野や領域の内容に即して現れるモチベーション。「数学のモチベーションは高いが,国語のモチベーションは低い」など),Cさんは状況レベル(その場その時で変化するモチベーション。数学の時間でもいわゆる「波」がある状態)の「モチベーション」に関心があるようです。

 また,「モチベーションが何と関係するか」における関心もそれぞれ違います。AさんとCさんは,なぜモチベーションが高まるのかという原因に関心があるのに対し,Bさんは,モチベーションによって学習行動が変わるという,モチベーションがもたらす結果に関心があるようです。
 さらに,モチベーションが高まる原因に関心があるAさんとCさんも,原因として何を想定しているかが違います。Aさんは親という人的環境,Cさんは畳という物的環境に注目しています。なお,AさんとBさんは人的・物的という差はあれ,いずれも環境要因に関心があるようですが,本人の信念や態度といった要因もモチベーションの高低に関わっています。

 こうして学習を進めていきますと,漠然としたイメージだった「学習に対するモチベーション」の構造がみえてきます。また,他の概念(事柄)とどのように関わっているのかということもわかります。「モチベーション」という地平に,地図が描かれていくようです。さらに,その地図上で各ゼミ生の関心がどこに位置づくのかも明らかになってきました。これは,ゼミ生が今後,モチベーション研究に分け入り,各自の理解を深めていく上でとても大切なことです。

 ――地図を描き,立ち位置を知る――

 このことは,卒業研究を進めていく以外の場面でも,例えば何か新しい提案がしたいときや,自分の役割を考えるときなどにも役に立つのではないかと思います。卒業研究など,これから新しく自分が何かしたいと思っているときに,既にあることを地図に描くことは,面倒で古臭い作業に思えるかもしれません。また,自分の立ち位置を考えることは,自分が型に嵌められるように感じるかもしれませんね。しかし,見方を変えれば,自分の強みを考えたり,自分が進んでいく先や新たな展開を考えたりするときに,地図があり,立ち位置がわかることは,非常に有用であると言えます。

 何かをしなくてはと焦るときほど立ち止まり,自分はどこにいるのか,どこに行こうかと頭の中の地図を開いてみてはいかがでしょうか。

引用文献
鹿毛 雅治(2013). 学習意欲の理論―動機づけの教育心理学― 金子書房.

モチベーション行動科学部

小林 寛子

小林 寛子
(KOBAYASHI Hiroko)

プロフィール
専門:教育心理学、認知心理学
略歴:2010年 東京大学大学院教育学研究科博士課程単位修得満期退学(2013年に学位取得)
2010年 日本学術振興会特別研究員PD
2012年 東京未来大学モチベーション行動科学部助教
2015年 東京未来大学モチベーション行動科学部講師
2018年 東京未来大学モチベーション行動科学部准教授(現在に至る)

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