皆さんは、普段自身が所属している職場に対して「エンゲージしている」[i]と感じていますか?米ギャラップ社の調査(2023年発表)によると、日本の職場でエンゲージしている従業員はわずか5%と、4年連続で過去最低を記録しています。この数値は、グローバル平均の23%を18ポイント下回り、OECD加盟国平均の20%を15ポイント下回っています。ギャラップ社では、日本の従業員のエンゲージメントが低いことによる日本経済への影響は91.7兆円に上ると試算しており、この数字は実に日本のGDPの13%に匹敵するとのことです。
ここ20年の日本経済の長期デフレやGDP成長の停滞を踏まえると、こうした調査結果も頷ける部分はありますが、裏を返せば「エンゲージしていない」従業員への対応こそが組織の成長と変化をもたらす最大の機会となりうるのではないでしょうか。
島津(2015)の研究によると「ワーク・エンゲージメント」の高い職員は、ハイパフォーマンスを生み出すとしています。(図1参照)では、この「ワーク・エンゲージメント」を上げるにはどのような要素が必要なのでしょうか。オランダのユトレヒト大学のSchaufeli 教授らによると「活力」と「熱意」と「没頭」の三つが揃った状態によって初めて組織に対する「エンゲージメント」という概念が生まれるとしています。ここでいう「活力」とは「仕事から活力を得ていきいきとしている」こと、「熱意」とは「仕事に誇りとやりがいを感じている」こと、そして「没頭」とは「仕事に熱心に取り組んでいる」状態を意味しています。また、この概念は一過性のものではなく、持続的で安定的な状態を捉えることを基本としています。
図1)ワーク・エンゲージメントの概念図
参考資料)島津明人「ワーク・エンゲージメントと関連する概念」(2015年)
しかしながら、多くの人にとって、持続的に仕事に誇りとやりがいを感じ、熱心に取り組み、仕事から活力を得て、いきいきとしている状態を保つのは、そう容易ではないと思います。実際のところ、多くの企業が組織を構築する上で、効果的な策を模索している部分でもあると思われます。そこで、本稿では世界有数のホワイト企業でもあるGoogle社と組織行動学を専門とするハバード大学のエドモンドソン教授が共同で行った「プロジェクト・アリストテレス」によって解明された働き続けたい組織の「成功因子」[ii]を紹介したいと思います。
- ①心理的安全性:メンバーに対して対人関係の不安を感じない。過ちを認めたり、質問をしたりしても、誰も自分を馬鹿にしたり、罰したりしないと確信できる。
- ②相互信頼:メンバーは「クオリティの高い仕事を時間内に仕上げる」という相互信頼がある。問題が起きた時にも責任転嫁しない。
- ③構造と明るさ:仕事の要求を満たすプロセスと成果を全員が理解している。目標は、取組みがいがあり、且つ達成可能であることが重要。
- ④仕事の意味:仕事そのもの、またはその成果に対して目標を持てる。仕事の意味は属人的であって、人さまざまで良い。
- ➄インパクト:自身の仕事は、組織や社会において意義があると主観的にメンバーが思える。個人の仕事のインパクトが可視化できると効果的。
私たちは、流動的で変化のスピードが速い変革の時代に生きています。それゆえ、プロジェクト・アリストテレスの結果が私たちに与えてくれたメッセージはとても貴重ではないでしょうか。
[i] ビジネスにおける「エンゲージメント」は、従業員の所属する会社に対する「愛着」や「思い入れ」などの意味で使われています。従業員の企業に対する貢献意欲や業績の向上につながる重要な因子の一つであると考えられています。
[ii] 齋藤徹「だから僕たちは、組織を変えていける」(2021)参照