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認知資源が減ると疲れるという話

投稿日:2023年11月24日

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 この時期は、平時の業務以外にも、報告書の作成とそのエビデンスとなるデータ分析に加え、卒業論文指導の繁忙期になります。そんな中、忘れていたブログの担当回が回ってきました。ブログなので、簡単に書けると思うかも知れませんが、「本学の学問領域に興味のある方に楽しんでいただける記事」との要望があります。更に、授業の過程で使用するために著作物を複製することは認められていますが(著作権法第35条)、ブログという特性上、授業過程ではないため、むやみやたらに著作物を掲載することはばかられます。そんなことをあれやこれやと考えていたら、テーマを考えるだけで大変疲れます。人間は複数の課題を同時に処理する並列分散処理は苦手なのです。ということで、複数の課題を抱えると疲れる話をしようと思います。
 認知心理学では、注意や思考、判断を行うためにはエネルギーが必要だと考えます。このエネルギーのことを認知資源といい、使っていくと減っていきます。認知資源が減ってくると注意力が散漫になったり、疲労したりします。認知資源は休息や睡眠により回復しますが、認知資源は有限であるため、見るもの聞くものすべてを丁寧に処理しているとすぐになくなります。そのため、普段は特別な事情がない限り、認知資源を浪費しないように節約していると考えられています(認知的倹約家)。例えば、スーパーでリンゴを買うとき、売っているリンゴ全てを吟味して買う人は稀です。多くの人が、パッと見で色つやが良く、美味しそうなものを買うのではないでしょうか。よほどの理由でもない限り、全てのリンゴを吟味するのは、時間も労力も掛かりすぎてしまい、リンゴ一つ買うだけでヘトヘトになってしまいます。ですので、自分にとってさほど重要でない事柄に対して、人は認知資源の消費が少ない方法を採用しています。
 とはいえ、人は自分の興味・関心があるものや自分にとって重要なことに対しては、認知資源を惜しみません。先ほどのリンゴが社運を賭けたプロジェクトに必要なものだったり、プロポーズ相手への贈り物だったりした場合、より良いリンゴを探し求めると思います(動機を持つ戦略家)。このブログも認知資源をすり減らしながら書いています。ですので、疲れます(タイトル回収)。
 さて、このように人は状況や動機付けによって、認知資源をどのように配分するかを使い分けています。このような人間の認知の癖を知ることは、勉強の仕方や安全管理、購買行動の喚起といったものにもつながると思います。例えば、習慣化してしまえば心的負担感は減りますし、欲しい商品がすぐ見つかれば、探す手間が省けます。いずれも認知資源の消費の軽減につながります。また、強い興味・関心を引き付けるものに対しては、敢えて難しくしたり、探しにくくしたりすることにより、その後の達成感や満足感に繋がることも考えられます。
 認知心理学は人の認知の在り方を対象とした学問ですが、その応用可能性は幅広く、面白いものです。このブログで少しでも伝われば良いなと思います。

モチベーション行動科学部

岩﨑 智史

岩﨑 智史
(IWASAKI Satoshi)

プロフィール
専門:認知心理学
略歴:立正大学大学院心理学研究科博士課程単位取得退学。
東京未来大学子ども心理学部助手、助教を経て、現在モチベーション行動科学部講師。

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