「心理学」というと、「人のこころを扱う学問」ということで、カウンセリングやコミュニケーション、犯罪心理学といったものを想像するかも知れませんが、人間の感覚や知覚を扱う「感覚・知覚心理学」という領域もあります。特に、大学で心理学を学ぶ場合、「心理学実験」や「心理学基礎実験」といった心理学実験に関わる科目で、必ずといって良いほど、感覚・知覚心理学領域の実験を扱います。私も心理学実験に関する科目で、感覚・知覚心理学領域に該当する「錯視」実験を担当しています。錯視とは、人間の知覚と対象の客観的な物理特性とが大きく食い違う現象をいいます。例えば、下の図のフィック錯視の縦線と横線は物理的に同じ長さですが、縦線の方が長く感じます。また、ジョバネッリ錯視の黒い円は真っすぐ碁盤目状に並んでいますが、ずれて並んでいるように見えます。同様に、ポッケンドルフ錯視の斜線は一直線上にありますが、ずれて見えます。このように人の知覚は、知覚対象の持つ特性によって、影響を受けることが分かります。錯視を例に挙げましたが、感覚・知覚心理学では、錯視に限らず、視覚や聴覚といった人の五感の仕組みについても扱います。
ただ、我々は五感の成り立ちや仕組みを知らなくても、経験的に知っていますし、利用もしています。例えばファッションにおいては、錯視や色の特性、注意の向けやすさを利用した上手な着こなし方が紹介されていますし、立体に見える広告や看板などが増え、耳目を集めています。また、立体写真が撮れるアプリなども増えてきています。
このように、感覚・知覚心理学はあまり馴染みがないように思いますが、注意を向けると普段の日常の中に溢れていることが分かります。ですので、普段の日常で人の感覚について考えてみると案外面白いかも知れません。
と、とりあえず、丁度最近、授業で錯視実験をやったばかりなので、コラムにしましたが、人の知覚特性を利用した商品を集め、研究室の一角に置いていたら、研究室が雑貨屋のようだと言われました。皆さんも気をつけましょう。