私の専門は対人関係やコミュニケーションの心理学です。親密な対人関係の心理もこの分野のテーマです。
先日,昼食を買いに行く夫に「○○(娘)はサンドイッチ。あと,何か,娘と私が食べそうなパン。」と頼みました。夫が買ってきたのはサンドイッチとハムとチーズのお総菜パン。娘と私が好きなのは甘いパン。「大雑把な注文だけど,甘いもの好きは知っているでしょう?!」「私がしょっぱいもの,甘いものの順に食べるのを見ているよね?!」と心の中でイライラしてしまいました。
お総菜パンは「パン」ですし,娘はハムとチーズが好きなので夫の判断は誤ってはいません。自分の説明不足を認識しているのに,なぜ私はイライラしたのでしょうか。
この感情に影響を与えているのは,知っている「はず」,普段を見ている「はず」,言わなくてもわかる「はず」という思い込みです。自分の思いが他者に実際以上に伝わっていると過大評価する認知の歪み(透明性錯覚)の働きです(Gilovich et al., 1998)。
夫婦で重視する情報が違うことも「パン違い」の要因です。夫は言葉での説明を重視し(低コンテクスト・コミュニケーション),私は文脈から察することを重視します(高コンテクスト・コミュニケーション)。そもそもコミュニケーションのスタイルが違うのです。
自らのやり取りを俯瞰しつつコミュニケーションをする際には,心理学の知識が役立ちます。次に類似場面に遭遇した時の対処も準備できます。そうすれば,夫婦喧嘩も未然に防げます。排他的関係がより密になるコロナ禍だからこそ,心理学の出番なのです。
円満な夫婦は,そうでない夫婦に比べて特別な日にプレゼントを渡す割合が2~6倍高いそうです(明治安田生命保険相互会社, 2021)。そういえば,もうすぐ結婚記念日。その調査結果をテーブルに置いておけば夫は見るはずで,プレゼントも用意してくれるはず。そうしたら円満な夫婦になれるはず?!
引用文献
Gilovich, T., Savitsky, K., & Medvec, V. H. (1998). The illusion of transparency: Biased assessments of others’ ability to read one’s emotional states. Journal of Personality and Social Psychology, 75, 332-346.
明治安田生命保険相互会社(2021). 「いい夫婦の日」に関するアンケート調査を実施 Retrieved from https://www.meijiyasuda.co.jp/(2022年2月15日)