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心についての知識の役割

投稿日:2025年03月19日

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 中学1年生の息子の額にポツポツと赤いものができ始めました。そう,思春期です。そして,息子の言葉の端々から棘を感じるようになってきました。どうやら,反抗期もやってきたようです。
 息子の反抗的な態度にムッとしてしまうのですが,そんなときは,息子が立つ後ろの壁に「反抗期はじめました」の貼り紙があることを想像し,一息つくようにしています。
 「反抗期だもんね,仕方ないよね~。」
 こう言うと,今のところ,息子はくすっと笑って,出した棘を引っ込めてくれます。

 息子には,小学校高学年の時に,反抗期について説明しました。思春期になると,人によっては周囲の大人に対する反抗心や,やり場のないイライラを感じるかもしれないこと,一定期間続くこと,息子も反抗期になる可能性があることです。思春期前だった当時の息子は,そんな自分を想像できなかったようですが,今は「まさに,それ!」と思っているようです。

 息子は,小学校に入学する頃にサッカーを始め,高学年から強さを求めるチームに移籍しました。少し経った頃,私はプラトー(高原現象)の話をしました。プラトーとは,心理学の用語で,学習やスポーツなどの習熟・上達の過程で一時的に上達度合いが停滞する状態を指します。縦軸にパフォーマンス(上達度),横軸を経過時間としたときグラフが横ばいになり,山の中腹に広がる平らな高原のような状態に似ていることから名づけられた現象です(図)。しかし,学習や練習を継続することで再び上達し,これを繰り返してパフォーマンスが向上します。
 チームメイトと切磋琢磨する中で,楽しいという気持ちだけでは克服できない伸び悩みの時期が来るはずです。しかし,その後に成長する時期がやってくること,「止まない雨はない」ことを知っていれば,辛くても努力し続けられるだろうという期待を込めて,図を書いて説明しました。

 試合をする楽しさを感じていた当時の息子は,伸び悩む自分の姿を想像できなかったようですが,ある時,手で水平の状態を描きながら「ちょっと前まで,あれ(プラトー)だった。」と話してくれたことがあります。また,チームメイトが伸び悩んでいたときに,プラトーについて説明し,一緒に頑張ろうと約束したと嬉しそうに言っていました。

 私が専門とする心理学は,心の有り様に関する普遍的法則を科学的手法で検証することを目標とします。では,普遍的法則がわかると何が良いのでしょうか。
 心の変化を予め知っていれば,その変化が生じたときに自分の状態を説明でき,納得し,安心できます。また,その変化が自分にとって好ましくない状態であれば,予防を講じたり,対処方法を考えたりできます。好ましい変化であれば,原因をコントロールして良い結果を促進することも可能かもしれません。普遍的法則の知識は,「息子は反抗期だから仕方ない」と私の怒りを(ある程度)鎮めたり,息子にとってはイライラしている自分の状態を理解できたり,サッカーで伸び悩んでも練習し続けたり,友達を効果的に励ましたりするなど,様々な場面で役立ってくれています。獲得した知識は,経験を積むことによって整理され,活用性の高いものになります。

 しかし,反抗期とはいえイライラをぶつけられるのは気分の良いものではありません。時々,「反抗期はじめました」の貼り紙を破きたくなることもあります。「止まない雨はない」とは言うものの,頑張っても辛いときは,私だって今すぐに止んでほしいと思います。どうやら,今の私は「わかってるけれど,なかなかできない」のときの対処方法を考える必要がありそうです。皆さんだったら,こんなとき,どうしますか?ぜひ,皆さんのコツを教えてください。それもまた,新しい知識になります。

図 プラトー(高原現象)

モチベーション行動科学部

磯 友輝子

磯 友輝子
(ISO Yukiko)

プロフィール
専門:社会心理学
略歴:日本大学国際関係学部および名古屋大学文学部を卒業。
大阪大学大学院人間科学研究科博士前期課程修了、同大学院博士後期課程単位取得退学。
同大学院助手として務めたのち、東京未来大学こども心理学部専任講師として着任。
こども心理学部准教授ののち、現在に至る。

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