
皆さんは、「スペーシアX」をご存じですか?
東京未来大学の前を颯爽と通過する東武鉄道の新型特急、白いアレです。
「秋バテ」という言葉をよく耳にするようになった某日の仕事帰りの道すがら、堀切駅を通過する「スペーシアX」が私の視界に鮮やかに映りました。日没後の深い紫紺の空を背景に走る白い車体、特徴的な窓枠から漏れだす白熱灯の黄金色の優しい光を目にし、一瞬のうちに非日常の世界にワープできるような感覚になりました。「スペーシアXに乗って、どこかに行ってみたい!」という思い(欲求)がわいてきました。「欲求」は、人の内部にあって、行動を引き起こす引き金としての役割をもちます。その行動が具体的な目標に向かうときに、モチベーションが生まれます(角山・石橋,2023)。「そうだ、日光に行こう!紅葉シーズン混雑期の前に」「東照宮、中禅寺湖、温泉、せっかくだから奥日光まで足を延ばしてトレッキング、自然を満喫しよう!」ということで、目標に向かって私(と家族)の行動は方向づけられ、数週間後の休日、スペーシアX に運ばれて1泊2日の旅に出かけました。車両はこだわりのある設計がなされ(※)、インテリアから座席まで風情があり、いつもの通勤電車とは全く違う趣でした。奥日光に到着してからは、行く先々で「熊の生息地、熊の出没に注意」の警告を目にしたので鈴を鳴らしながら歩き、自然の豊かさに魅了され、乳白色の天然硫黄泉の温泉で温まり、「いつもと違う」体験を満喫しました。英気を養い幸福感をもって日常の仕事生活に戻りました。
このように旅には非日常と関連してリフレッシュ効果があり、ワークモチベーション(働く意欲)の維持向上も見込まれます。近年、旅のポジティブな影響力を活用して、働く人々の心身の健康を増進しようとする「へルス・ツーリズム」「メンタルへルス・ツーリズム」の考え方が企業組織でも注目されつつあります。実証的研究においても「週末に短期的な旅行に行くことは、働く人の気分の向上やストレスの低減を促す」ことが報告されています(川久保・小口,2015)。
さて、旅へのモチベーションは5つ「緊張解消(例:リラックスしたい)」「娯楽追求(例:楽しいことや刺激がほしい)」「関係強化(例:家族や友人とのつながりを深めたい)」「知識増進(例:新しい知識を得たい)」「自己拡大(例:自分自身を成長させたい)」に分類されます(佐々木,2000)。スペーシアXへの興味をきっかけとした私の旅は「娯楽追及」「緊張解消」であったと思っています。
実は後日、この旅の土産話をゼミ内で共有しようとした矢先に、さらなる非日常への飛躍を聴かせてもらうことになり、話さずじまいになりました。
Aさん:「先生、一人旅、ミステリーツアーに行ってきました!!」
筆者:「どこか怖~いところに連れていかれたの?!」
Aさんによると、参加したミステリーツアーは「到着するまで目的地を知らされない、フェリーに乗って未知の島で降りて1日を過ごす、大手旅行会社が提供するツアー」のことです。Aさんは生き生きとした表情で、美しい離島・海・夕日の写真を見せながら、人々との出会いや感動体験を共有してくれました。Aさんに、「目的地が分からない離島に行くモチベーションは?」と尋ねたところ、「自分が成長できる気がする」と即答があり、ハッと気がつきました。Aさんにとっての旅は、自分を成長させるための挑戦だったのだと。
ゼミでの活動、卒業研究を通してさらなる成長を応援したいと思います。
(※)詳しくはWebサイト「東武鉄道株式会社ホームページ>鉄道情報>特急列車>車両のご紹介>スペーシアX」をご参照ください。
引用文献
角山 剛・石橋 里美 (2023). モチベーションの心理学(現代に活きる心理学ライブラリ:困難を希望に変える心理学 7-1) サイエンス社
川久保 惇・小口 孝司 (2015). メンタルヘルス・ツーリズムとしての短期旅行が従業員の精神的健康に及ぼす影響 日本国際観光学会論文集, 22, 179-185.
佐々木 土師二(2000).旅行者行動の心理学 関西大学出版部