あなたは,「夫は外で働き,妻は家庭を守るべきである」という考え方に賛成でしょうか,反対でしょうか。内閣府が実施している「男女共同参画社会に関する世論調査」では,この質問に「賛成」「どちらといえば賛成」と答えた人の割合は,1992年時点では60.1%でしたが,2022年時点では33.5%にまで減少しました※1。「男は仕事,女は家庭」という考えは性役割態度と呼ばれますが,30年間でこの態度が平等的な方向に大きく変化したことが伺えます。でも,本当にそう言ってよいのでしょうか。
1990年代後半から,社会心理学では,態度には意識できる部分と意識できない部分があると考えられるようになりました。意識的な態度を顕在態度,非意識的な態度を潜在態度と呼びます。アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)という言葉を聞いたことがあるという人もいるかもしれませんが,これは潜在態度における偏見の問題として考えることができます。
潜在態度を調べる代表的な手法の1つに,潜在連合テスト(IAT: Implicit Association Test)があります。性役割に関する潜在態度をこのテストで調べるのであれば,次のような手順をとります。下の図を見てください。分類AとBがありますが,それぞれ縦一列に,男性か女性の名前(例.けんじ,めぐみ),仕事か家庭に関連する言葉(例.会議,掃除)が並んでいます。これらの名前や言葉を左右に分けるのですが(カッコ内に○をつけるイメージです),分類Aでは,男性の名前と仕事に関連する言葉を左側に,女性の名前と家庭に関連する言葉を右側に分けます。一方,分類Bでは,女性の名前と仕事に関連する言葉を左側に,男性の名前と家庭に関連する言葉を右側に分けます。分類AとBでは,男性名と女性名の左右の位置が逆になっていることに注意が必要です。
潜在連合テストではこうした2種類の分類を行い,そのスピードを比較します。もし分類Aのほうが素早く分類できたとすれば,「男は仕事,女は家庭」という性役割態度を非意識的に持っていると解釈されます。また,分類AとBで分類スピードがほぼ同じであれば,性役割に関する潜在態度が平等的と解釈されます。
さて,あなたはどちらのほうが素早く分類できたでしょうか。私の授業では,この潜在連合テストを毎年体験してもらっているのですが,分類Aのほうが素早く分類できたという学生のほうが多いという結果が得られています。つまり,非意識的な部分では「男は仕事,女は家庭」という考えがいまだに持たれていると考えられます。冒頭で紹介した世論調査の結果は,男女平等的な考えが進んでいることを示唆しますが,それはあくまで意識できる範囲であって,非意識的な部分には問題(潜在的な偏見)が残っているといえます。ジェンダー平等を実現するうえで解決しなければならない問題で,研究も進んできていますが,それはまたの機会といたしまして,まずは非意識のジェンダー・バイアスを知ってもらえればと思います。
※1 令和5年「男女共同参画社会に関する世論調査」の概要(https://survey.gov-online.go.jp/r04/r04-danjo/gairyaku.pdf)より