モチベーション行動科学部
モチベーション行動科学科

モチベーション行動科学部への招待

第6回 欲求の階層

私たちの内部には、生理的なものから心理・社会的なものまで、さまざまな欲求が存在します。欲求が生まれるところには何らかの欠乏状態があり、欲求を満たし欠乏状態を解消しようとする行動が生まれます。行動が具体的な目標をもったときに、達成へのモチベーションが引きおこされるのです。

心理学者のマズローは、こうした欲求が私たちの内部でバラバラに存在するのではなく、一定の秩序あるいは階層性をもって存在すると考えました。

マズローによれば、欲求には5つの階層があります。最も低次の階層にある欲求は「生理的欲求」です。生理的欲求は私たちの生命維持に不可欠な基本的欲求であり、この欲求が欠乏したままでは人は健康に生きていくことができません。この生理的欲求が充足されると、次に一段階上の「安全欲求」が意識されるようになります。脅かされたり危害を加えられたりすることなく、安全快適な環境で生活したいとする欲求です。この安全欲求が満たされると次に意識されるようになるのが、人から愛されたい、集団の一員として認められたいという「愛情・所属欲求」です。そしてこの欲求が満たされると、もう一段上の「尊厳欲求」が意識されるようになります。自分の判断で自律的に行動し、周囲からも尊敬されるようになりたいという欲求です。

ここまで4つの欲求が出てきました。ある段階の欲求が満たされていないときには、私たちを行動に向かわせる力が生まれます。しかし、満たされてしまうとその欲求は私たちを行動へと向かわせる力を失い、今度はそれよりも上位にある欲求が順次現れてきます。

では、この中で一番上位にある尊厳欲求が満たされたときにはどうなるのでしょうか。マズローによれば、尊厳欲求が満たされると、さらに上位にある「自己実現欲求」が現れます。これは、自己の可能性を追い求め、それを最大限実現しようとする欲求であり、人の精神的な成長span不可欠の欲求であるとされます。生理的欲求から尊厳欲求までは、それが充足されるともはや人を動かす力は失われますが、自己実現欲求はちがいます。「今の自分なら、もっと上をめざせるはず」「ここまで来ることができたのだから、自分の可能性はまだ伸ばせるはず」と、より高みを目ざし、止まることなく人を成長させる欲求なのです。

マズローの説は欲求階層説、あるいは欲求5段階説として広く知られています(図参照)。企業組織に働く人々のモチベーションにどのように働きかけていくかという問題にも、マズローの考え方は大きな影響を与えています。彼の理論は欲求系組織理論として発展し、働く人々の自己実現を可能にする会社や組織をつくるにはどうしたらよいかを考える多くの研究が生まれています。

欲求は階層性をなしており一定の秩序の下に存在するという考え方は、皆さんにも納得がいくものではないでしょうか。「衣食足りて礼節を知る」という諺がありますが、衣(安全欲求)や食(生理的欲求)が満たされた後に礼や節(いずれも所属や尊厳に関する社会的欲求)が出てくると解釈することもできます。洋の東西を問わず同じような考え方が生まれているのも面白いと思いませんか?


マズローの欲求階層説

PAGETOP