モチベーション行動科学部
モチベーション行動科学科

モチベーション行動科学部への招待

第4回 接近と回避のモチベーション

モチベーションが目標達成に向けての意欲やエネルギーを表す概念であることは、すでに説明しました。目標に向かって頑張ってみよう、やってみようという意欲が、私たちを動かすのです。したがって、目標に到達すると、満足感や充足感を味わうことができ、次の目標に向かうモチベーションが湧いてきます。

一方で、苦手なテスト、やりたくない役割など、「近づきたくない、できるだけ離れたい」と思わせるような対象や事象も、私たちのまわりにはいろいろあります。こうした対象に近づくと、不快感や緊張感が強まり、そこからできるだけ遠くに離れようとする行動が生まれます。対象に近づきたいとする意欲を「接近モチベーション」とすれば、こちらは「回避モチベーション」ということができます。理論的にはこのようなモチベーションも考えられるのです。

それぞれのモチベーションの特徴を考えてみましょう。まず、接近モチベーションです。こちらは近づくにつれて充足感が強まります。つらくて苦しかったけど、もう一息で完成というところまで来ると、さらにエネルギーが強まります。また、将来はこうなりたい、こういう自分でありたいという目標は、達成するまで先は長いけれども、私たちを息長く動かしていきます。

これに対して、回避モチベーションはどうでしょう。台風が近づいて今日の授業は中止、「バンザイ、テストが延期になった!」と喜んで、そのまま来週までなんにもせず、またテスト前日になって頭をかかえるということはありませんか。回避モチベーションの場合には、いやな対象から離れると、その時点でもうモチベーションは解消してしまい、行動はそこで終息してしまいます。長続きしないのです。

回避モチベーションで私たちの行動をコントロールすることは可能です。たとえば、部活をさぼったら校庭10周のペナルティが課されるとしましょう。怖い先輩が睨みをきかせている前では、周回をごまかすこともできません。けれども、さぼってもなんにもペナルティがない場合はどうでしょう。部活に熱心に取り組まなくなってしまうかもしれませんね。あるいは、成績が下がったらお小遣いも下げられてしまうというこどもがいます。でも、お母さんがその約束を忘れてしまって、テストの点数が悪かったのにお小遣いはそのままだったら、こどもは「あ、成績下がってもだいじょうぶだ」と、その後はますます勉強しなくなってしまうかもしれません。

つまり、回避モチベーションは、一時的には人を動かす力をもつかもしれませんが、対象から回避してしまえば、その力は急速に弱まります。それをやらないとイヤなことがあるからやるというのは、反対から見れば、イヤなことがなければやらないということにもなり、行動としては長続きしないのです。これに対して、接近モチベーションは、たとえ対象が遠くにあっても、なんとかしてそれに近づこうとする努力を生みます。目標をもち、達成に向かって進むことが、私たちの行動を確かなものにしていくのです。

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