モチベーション行動科学部
モチベーション行動科学科

モチベーション行動科学部への招待

第5回 コンフリクト

前回とりあげた、接近あるいは回避のモチベーションが同時に存在する場合、私たちの行動はどうなるでしょう。

日常の私たちの行動は、一つのモチベーションあるいは一つの願望・欲求だけで動かされているわけではありません。「洋食も食べたいけれど中華も食べたい」とか、「勉強もトップになりたいし、部活でもレギュラーになりたい」といったように、一度に複数のモチベーションや欲求が生じることは、よく経験することです。モチベーションや欲求が一度に複数存在し、それらが競合する状態は「コンフリクト(葛藤)」とよばれます。

コンフリクトには3つの基本型があります。第1は、「接近─接近」型のコンフリクトです。上の例のように、魅力のある対象が複数存在する中で、両方の対象に近づくことができればよいのですが、残念ながら身体は一つ。したがってどちらかを選ぶしかないという状態です。このような場合、私たちはどちらをとろうか迷いますが、最終的にはより魅力のある対象を選びます。

第2は、「回避─回避」型のコンフリクトです。どちらの対象も、できれば避けたいのですが、一方を避けようとすると一方に近づくことになってしまいます。表から逃げようとすると虎がいて、裏に回ったらオオカミがいる、どちらからも逃げられない(「前門の虎後門の狼」)という状態です。あるいは、勉強するのはイヤだけれど、親からガミガミ怒られるのもイヤというのも、このタイプのコンフリクトです。このような場合、私たちの行動は、両対象から最も離れたところで停止します。親から怒られない程度に勉強するふりをしていた、などという経験はありませんか。

第3は、「接近─回避」型のコンフリクトです。これは、一つの対象が、強い魅力で私たちを惹きつけると同時に、そこから離れたいという気持ちも起こさせる状態です。おいしそうなケーキを前に、「食べたい、でも痩せたい」と迷うコンフリクトといえば、すんなり頭に入るかもしれませんね。このような場合、私たちはその対象に近づいたり離れたりを繰り返すことになります。

この3つの基本型の中でやっかいなのは、やはり第2の「回避─回避」型コンフリクトでしょう。「コーチの指導方針には納得できない、だけど部活は辞めたくない」という状況を考えてみましょう。練習が始まればコーチの指導に従わなければならない。それはイヤで仕方がないのだけれども、反抗すれば部活を辞めなければならなくなるかもしれない。それもイヤだ──。こんな状態では、部活へのモチベーションは低下してしまいます。コーチに睨まれないよう、クラブに居づらくならないよう、ほどほどの練習でお茶を濁すということにもなりかねません。

こうしてみると、やはり回避モチベーションで人を動かすのは長続きしません。そればかりでなく、心理的にも大きな負担がかかることも多いのです。では、積極的に前に進んでいくにはどうすればよいでしょう。それは前回も触れたように、近づきたい、達成したいという目標をもち、目標に向かって進む「接近モチベーション」を大事にすることです。


コンフリクト(葛藤)の3基本型

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