モチベーション行動科学部への招待
第3回 モチベーションは目に見えない?
モチベーションを直接に観察することはできません。「え? だってモチベーションの強さは見ればわかるよ」と思うかもしれませんね。でも考えてみて下さい。リンゴやナシのように、これがモチベーションですと、手にとったり直接目で見ることはできますか。できませんね。
心理学の研究対象には、このように直接目で見て観察できないものが多くあります。たとえば、性格や知能も直接目で見たり手にとって観察することはできません。こうした対象は、『それがあると仮定することで、ものごとをうまく説明することができる』という意味で、少し難しい言葉ですが「仮説構成体」といいます。モチベーションも仮説構成体です。
では、直接観察できないものをどうやって調べていけばよいのでしょう。それは、目に見える行動を通じて調べるのです。実際に生じている行動を観察し、そこから類推をしていくのです。モチベーションについていえば、モチベーションに関わると考えられる行動をさまざまな視点、さまざまな方法を用いて観察し、それをもとにモチベーションの強さやモチベーションの影響を探っていきます。
さまざまな方法の中には、実際の行動観察や、質問紙による測定、実験などが含まれます。たとえば、会話の内容や勢い、動作やしぐさ、姿勢、相手と交わす視線など、観察の対象となる行動はいろいろあります。血圧や心拍数なども、器具を用いて測定することで、モチベーションにつながる私たちの心の状態を推測する手がかりになります。
では、こうして観察された行動から、私たちのモチベーションをすんなりと推測することはできるのでしょうか。観察された行動からモチベーションを探るときには、たとえば以下のようなことが問題になります。
- ・単純な行動に見えても、背後には複数のモチベーションが関わっていることがある
- ・同じモチベーションでも、違った行動となって現れることがある
- ・似たような行動でも、背後にあるモチベーションは違っているかもしれない
- ・文化の影響や個人差によって、モチベーションの現れ方に違いが生じることもある
こうした点に、モチベーション研究の難しさが存在します。私たちが何気なく使っている「モチベーション」という言葉も、科学的な視点に立てば探るべき問題はこのようにたくさんあります。だからこそモチベーションの研究は奥が深く、面白いともいえます。心理学や経営学、教育学などの分野でモチベーションが大きな研究テーマになっていることの一端をわかってもらえたでしょうか。
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